第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「もう確認は取れたでしょ。帰って」
「…なんだその態度は。わざわざ見舞いに来てやったと言うのに」
「一応御礼は言っておく。ありがとう」
一応、なんて。
本当に可愛げがないと思う。
けれど今更、バクに対して可愛い自分なんて演じられる訳もない。
私はリナリーにはなれないし、なろうとも思わない。
だから切り捨てるべきなんだ、こんな不毛な想いは。
「ほら、もういいでしょ。帰ってよ」
「待っ…押すなッ」
「なら帰ってってば」
これ以上はバクと話していたくない。
醜い自分が溢れ出してしまいそうで、嫌になる。
「お前は…っ少しはリナリーさんを見習って他人に優しくなったらどうだ!」
部屋の外へとバクを追い出していた手が止まる。
…今、なんて?
「大体こんなものッ病人が吸うな!」
持っていた煙草を取り上げられる。
だけど私の体は動かない。
「他班を管理する立場の癖に、自分の体を管理できなくてどうするッリナリーさんはエクソシストとしての役目を理解して全うしているというのに…!」
私はリナリーじゃないし、リナリーになろうとも思わない。
あの子が凄いことは認めるけど、そこに天秤を懸ける意味がわからない。
煙草は私の一種の安定剤。
けれどヘビースモーカーではないし、仕事中も一切吸ったりはしてない。
単なる、趣味の一つだ。
……何よそれ。
「………帰って」
「だから、人の優しさをなんだと」
「バクの優しさなんて要らない。迷惑だから帰って」
「な…ッなんだその言い草!?」
優しさは一歩踏み間違えれば刃物にも変わる。
あんたのその優しさは、私には痛いのよ。
私の想いに応えられないでしょ。
なのに変に優しくしてくるから、この想いも捨てようがない。
…そんな優しさなんて要らない。
余計に溝を深めるだけだ。
「もう二度と一人で此処に来ないで」
「は!?なんだと言うのだっ意味がわからんぞ!」
「知りたいの?私はリナリーじゃないけど」
「何故そこでリナリーさんが出てくる…!俺はミアの言ってることがわからな」
「じゃあ教えてあげる」
目の前の室長服の襟首を掴む。
「な…ンッ!?」
そのまま強く引き寄せて、傾くバクの顔にそれを押し付けた。
薄い唇に、重ねたのは自分の唇。