第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「まぁ予想はしてたがな。ほら」
「何、これ?」
呆れつつもバクが手渡してきたのは一つの水筒。
受け取ればほんのりと温かい。
なんだろう?
「ズゥじっさま特性の漢方薬」
「え"」
「は苦手だろうから、別の料理番に作らせた生姜蜂蜜だ。ミアは甘い方が好みだっただろ」
少し意地悪そうな顔で笑って、安心しろと首を横に振る。
私と二人きりの時に偶に見せる、役職も上下関係も抜きにしたバクの姿。
…そういうところは、ちゃんと憶えてくれてるんだ。
幼少期から何かと面倒を見てくれたズゥ老師。
あの方の作る漢方薬はよく効くけど、その分凄く苦い。
だから昔から苦手だった。
実は毎朝飲んでいる珈琲も仕事のスイッチを入れるというか、喝を入れる為のもので別に好きな訳じゃない。
本当は砂糖もミルクも入れた優しい味の方が好き。
でもそういう話をすると「イメージと違う」なんて言われることも多くて、自然と話さなくなった。
幼馴染だから知っていて当然かもしれない。
それでもその当然を認知して行動に起こしてくれるバクに、胸の奥がきゅっとした。
…って駄目でしょ私。
新しい恋をしようと決めたばかりなのに。
「それを飲んだら早めに寝るんだな」
「…これを渡す為に来たの?」
「べ、別に心配だった訳じゃないぞッリナリーさんの手紙をちゃんと出したか確認ついでにだな…!」
ほんの少しの期待を込めて聞けば、ほんのりと頬を染めて慌てふためくバクの口からリナリーの名前が飛び出した。
聞き慣れた名前なのに、さっきまでじんわりと染み渡っていた心が急速に冷えていく。
…なんで弱っている時に、好きな男の想い人の話をしなきゃならないんだろう。
リナリーは決して悪くない。
でも…ああ、駄目だなぁ私。
風邪の所為か、余裕がない。
やっぱり諦めをつけないと。
こんな些細なことで浮き沈みするなんて、仕事にも支障をきたすしプライベートも回らなくなる。
「リナリーへの手紙なら午前中のうちに出したから」
「本当か?」
「私が今までリナリー関連で業務を怠ったことある?」
何度も何度も経験してきた。
バクの想いを聞いて、受け入れて、励まして。
その度に押し込んできた私の想いは、何処にも行き場はない。
それなのに止めることができないから、長年燻り続けた焦げ跡が、痛い。