第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
「それより何?仕事の話なら時間外だけど」
「そんなことじゃない。入るぞ」
「あ、ちょっと。本当になんなの?」
我が物顔で部屋に入るバクは、幼馴染の私だから許されるというか。
これが職場のつき合いだけの女の子だったら絶対アウトだからね。
相手はバクだし、警戒する必要もない。
目の前のドアを閉めて振り返れば、バクの切れ目は部屋の中じゃなく私へと向いていた。
…何。
「今日、食堂に来ていなかったな」
「…お昼ならきちんと取ったけど」
「違う、夕食のことだ。食欲がないのか?」
ドキリとした。
なんでそんなピンポイントに突いてくるんだろう。
仕事が忙しくて食堂に寄れないことなんて、今までにも何度もあったのに。
バクの切れ目に見透かされているようで、咄嗟に上手い言い訳を考えられないでいると、徐に目の前の体が───ってちょっと。
何、なんで近付いてくるのっ?
「何───」
簡単に距離を縮めるバクに、体が反射的に仰け反る。
だけどそれくらいじゃ距離は引き離せず、伸ばしたバクの手が私の首の後ろに触れた。
ぐいと引き戻されて、額に触れたのは同じくバクの額。
「…やはりな」
「っやはり、って…」
「熱があるだろう。結構高いぞ」
いや、それは、目の前の光景とその行動に体温が上昇してるだけであって。
ちょっと…流石にこれは近過ぎじゃない。
というか額で直に体温を測るなんて、一体いつの時代の方法なの。
「恐らく今日発熱したものだろう。昨日まではそんな顔をしていなかったからな」
「何、そんな顔って…」
「そんな顔はそんな顔だ。体調は芳しくない癖に、すぐ平気なフリをするだろう」
顔と手を離すバクに、ようやく一息つく。
その顔無駄に整っているんだから、不用意に近付けるのやめて。
というか不用意に触れるのもやめて欲しい。
そんな私の心境を余所に、バクは不満の表情を露わにした。
「周りは騙せてもこの俺は騙せないからな。ちゃんと食事を取れ。でないと薬も飲めないだろう」
「…だって食欲ないし…」
「子供かお前は…」
呆れたようにバクに溜息をつかれる。
いつもなら言い返すけど、正論だからなんだか返す言葉が見つからない。
…なんだか、今朝と立場が逆転してしまったみたいだ。