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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】



リナリーに対して不満や憤りは何もない。
あの子はエクソシストとして真っ直ぐに生きているだけだし、そこにバクが惹かれただけだ。
ただ…その真っ直ぐさに、羨ましさはあるけれど。
それなりに年数を重ねて人の良いところも悪いところも見てきた自分は、立ち回りだけ上手くなってしまった気がする。
大きく傷付くことは減ったけど、大きく踏み出すことも減った。

今の職場に不満はない。
自分の立場にも不満はない。
ただ理性で抑えられるこの僅かに残った想いが、まだ燻り続けていることが嫌なのだ。



「恋人でも作るかな…」



こういう想いを忘れさせるには、新しい想いで上塗りするしかない。
最近は仕事ばかりで次の恋人を作っていなかったけど、良い機会かもしれない。
どうせなら、バクとは似ても似つかない相手を作るかな。

風邪の症状でそう感じなくても、胃袋は空っぽ。
代わりにそれで埋めるように、ベッドサイドの煙草に手を伸ばした。
火を灯したそれを深く吸い込めば、頭の中が冴える。
今は風邪気味だし、一本だけにしておこうかな…これを吸ったら仕事のおさらいをして、早めに寝よう。

仕方ないけど、お風呂は明日に延長。
そう諦めた時、ドアをコツコツと控えめにノックする音を耳にした。



「?…どちら様?」



こんな夜に、誰だろう。

声を掛けても返事がない。
フォーの護りがあるアジア支部だから、不審者なんて入ってくることはないだろうけど。
ハオ君だったら、素っぴんはあんまり見られたくないなぁ。
というかハオ君だったら、返事をしないなんてことはないだろうし。

本当に、誰?



「勧誘ならお断りしてますけど」

『っそんな訳ないだろう!』



ドアの前で試しにもう一度声を掛ければ、今度は聞こえた。



「…バク?」



何年も前から馴染んだその声が。

え。
本当にバク?



「…本当にバクだ…」

「なんだその反応は。俺様が来たら悪いのか」

「その俺様発言、いい加減止めた方がいいわよ。30のいい歳した男が、痛いから」

「ん、な…!ぅ、煩いッ!」



ドアを開ければ、やっぱり其処には今朝と同じ支部長の隊服姿のバクがいた。

昔からそうだったわよね。
変にプライドは高いから、気心知れた相手の前だとすぐ威張る癖がある。
もう止めた方がいいと思う、それ。

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