第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
私の職場は、一般的な職場とは少し違う。
ヴァチカンが設立した聖戦の為の軍事機関、"黒の教団"。
そこを拠点本部に、各国に設けられた支部の一つ、中国にあるアジア支部。
其処が私の職場だ。
一応肩書きもある。
"アジア支部総合指揮官"、それが私の役職名。
見栄えはいいかもしれないけれど、やることは各班の取り纏め。
指示は出すものの、現場のことは現場の人間がよくわかっている。
そんな現場の話を聞いて、迅速且つ穏便に物事を進めるのが私の役目。
でも相手は人間。
話だけで上手く取り纏められないことはよくある。
その時の橋渡しが私なだけで、所謂仲介役だ。
時には双方の不満を延々聞かされることもあるし、結局反りが合わず一から組の立て直し、なんてこともザラ。
残業が増えればその分、眉間の皺も肌の荒れ具合も吸う煙草の数も多くなる。
ストレスの溜まる仕事だ。
じゃあなんでこんな仕事を担っているのか。
理由は簡単。
「ミアさん、珈琲です」
「砂糖は…」
「勿論、無しにしてますよ」
「ありが───」
リリリリン!
いつもの目覚めの珈琲を受け取っていると、机の隅の電話機がけたたましく音を立てた。
受話器を取るハオ君を見ながら、深く椅子に座り込もうとしていた足を止める。
…嫌な予感。
「はい、わかりました。…ミアさん」
「何?」
「その、バク支部長が…」
いつもハキハキ受け答えの良いハオ君の声が、歯切りを悪くする。
そこから出てきた名前とその反応だけで、面倒事だと一発でわかった。
「また何かやらかしたのね…」
一度だけ口を付けた珈琲のマグを机に置いて、椅子に座ることは諦めた。
午前中の仕事がこれで半分は時間を取られる。
ゆっくり珈琲を味わう暇もない。
「バカバク」
私がこんな面倒でストレスの溜まる仕事を担う一番の理由。
それは彼にある。
此処の最高責任者であるアジア支部支部長───バク・チャン。
彼が仕事をしないから、だ。