第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「…す…」
「………(本当に寝た…)」
深い静かな呼吸音。
神田とベッドを共にするようになって知った、聞き耳を立てないと拾えない程の彼の寝息だ。
任務中に睡眠を取ることはあっても、こんな仮眠程度のもので神田が深く寝入ったことはない。
それ程リラックスしているのだろうか、と思うとほんのり雪の心に温かさが宿る。
自室のベッドでしか見られない、年相応のあどけない寝顔を見せているのだろうか。
気にはなったが、頭に乗せられている寝顔は見ることができない。
残念気味に視線を落とせば、握られた自身の手首で止まる。
緩やかな力でも放さない神田の動作が、なんだか甘い束縛のように見えて。
自分も大概盲目だなと呆れつつ、それ以上に深まる充足感に雪はほんのりと苦笑した。
(これじゃあ罰にはならないなぁ)