第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「なんで罰…」
「危機感の足り無さ加減に」
「それならユウだってよく怪我し」
「あ?」
「すみません」
危機感の欠如は、怪我に対してだけではない。
そう説明する代わりに、悪態を一つ。
そこまでいちいち説明してやる程、お人好しになるつもりはない。
途端に姿勢を正す雪の頭に顔を埋めたまま、神田は再び目を閉じた。
「…身長が縮む…」
「縮むか、それくらいで。第一それ以上縮んだって、別に大差ない」
「そりゃあユウからすればね、180cm以下は誰だってチビでしょうよ。その身長少し分けて」
「物理的に無理なこと言うな。阿呆か」
「願望が口に出ただけでしょ…っ呆れた声で正論言わないで、虚しいから!」
「煩ぇな。いいからもう寝るぞ」
「ぅ、重…っ」
遠慮なく体重を掛ければ、枕代わりの体温は大人しく動かなくなった。
どうやら罰は甘んじて受けるつもりらしい。
配慮もしているのだろうか、小言は一切聞こえてこない。
微かに聞こえるのは、雪の喉を通る呼吸音。
程良く体を預けられる小さな体格は、触れた箇所から女性特有の柔らかさが伝わってくる。
じんわりと染みる仄かな体温。
嫌がらせの一つとでも思い行った行為は、予想外に神田にとって心地の良いものだった。
本当にこのまま、意識は深い眠りに落ちていきそうだ。
(割と安心するな…これ)
すう、とゆっくり呼吸を一つ。
ふうわりと、雪自身の持つ匂いが香る。
まるで抱擁されているような感覚に陥りながら、神田は静かに意識を沈めていった。