第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「じゃあ、私は外で待機し」
「駄目だ」
いつものようにファインダーの定位置に着こうとする雪。
席を立ち通路に出ようとするその手首を、掴んで阻止した。
「此処にいろ」
「でも、仕事中だし…掛け布団でも貰って来」
「要らねぇ」
何かと"仕事中"と言っては、雪が二人きりの任務でも甘い雰囲気を作ることなど滅多にない。
ストイックに任務をこなすのは神田も同じこと。
余程感情にスイッチが入らない限り仕事相手として同じ時間を過ごしているが、今回は見過ごせなかった。
「お前、また怪我しやがったな」
掴んだ手首の先には、簡単な処置が行われた包帯が見える。
刃物のようなもので幾度も切り付けられた跡は、隠し通路の中で背負った傷らしい。
「これはトラップに引っ掛かっちゃって…私とルパンの命を助ける為に負ったものだから、命に比べれば大した傷じゃないよ」
容赦ない消毒をされることを恐れているのだろうか。
あたふたとフォローを入れる雪に、それでも神田の眉間の皺は消えなかった。
「大したことなくても軽視はするな。怪我は怪我だ」
「う、うん。だからしっかり消毒もしたよっ雑菌は入ってないし、教団に戻っても手当し直す必要はないからっ」
「………」
「だ、だから…もう大丈夫、と言うか…」
「………」
「だからその…痛いことは止めて下さい…」
怯える様はまるで小動物。
それでも恋仲前は顔を真っ青にして腕を振り解き逃げ出していた。
そんな雪に比べれば、充分進歩はあっただろう。
ならば自分も多少は進歩せねばと、手首を掴んでいた力を和らげる。
「なら代わりに此処にいろ」
「あっ」
しかし手首は放すことなく、引いて隣に座らせる。
「罰として寝ている間、枕になれ」
「わ?」
ぽすりと、雪の頭に突如落ちてくる重み。
衝動でぱさりとファインダーのフードが落ち、頭皮に直に感じる他人の肌。
「枕って…頭が?膝じゃなくて?」
「それじゃ罰になんねぇだろ」
神田が体を傾けて頭を預けたのは、雪の頭部の上だった。
以前膝を借りて深い眠りに落ちた時、雪は平気な顔で一時間枕代わりをしてくれていた。
それでは到底罰にはならない。