第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「そうなんだ。次元とは話が合ったりしたの?」
「別に、そんなんじゃない」
「そうなの?」
「………」
それでも何かと負の感情を撒き散らす神田が、他人にそれを向けないのは珍しい。
興味深く見てくる雪の視線を感じつつ、神田は顔を逸らし続けた。
(あのガンマンは変に好意も向けてねぇし。範囲外でいい)
洞察力の高い神田だからこそすぐに気付けた。
次元は雪に人としての好意は持っていたとしても、異性としての好意は持っていない。
良くて兄妹愛のようなものだろう。
ルパンとは真逆に面倒事を嫌う性格なのに、雪につき合っていたのは精々そんなところだ。
しかしルパンは違う。
何かとふざけた物言いで本音を誤魔化す泥棒だが、神田自身が特別な感情を雪に抱いているからこそわかった。
ルパンの雪を見る目が、偶に自分のそれと同じ色を持っていることに。
だからこそルパンの一挙一動が気に喰わないのだ。
素知らぬフリで、さらりと雪の心を奪っていきそうで。
認めたくはないが"世紀の大泥棒"という名は、伊達ではない。
「次元は良くてルパンは駄目なの?」
「……はぁ」
「え。なんでそこで溜息」
再度問い掛けてくる雪に、ようやく視線を向ける。
見れば予想通り、首を傾げて彼女は本気の疑問符を浮かべていた。
ルパンと次元の雪を見る眼は、明らかに違うと言うのに。
「気付けそれくらい」
溜息の一つも出てしまう。
「何が?…ルパンのスキンシップとか?あの泥棒は、異性に対しては全部そうだよ。幽霊だったカーラちゃんにさえも、初対面で可愛いっていきなり口説いてたし」
「………」
「な、何その目」
「もういい。寝る」
どうせ説明したところで、ルパンには興味ないから、などと言って危機感の半分も持ちはしないのだろう。
余所に目移りしないのは良いが、相手はあの大泥棒。
楽観視はできない。
それでも今此処で話しても自分の苛立ちが増すだけ。
目の前の雪に負の感情をぶつけまいとした神田なりの譲歩と、諦めが半々。
呆れた顔で腕を組み直し、座席に背を預ける。
眠る体制に入った神田に、雪は不思議そうな目を向けながらもそれ以上問い掛けなかった。