第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「っ……ごめん…」
「…なんに対しての謝罪だ」
どうにか絞り出すようにして小さな声で謝罪をすれば、ようやく神田は反応を示した。
しかし口調は素っ気なく感情は見えない。
「それは…色々、と?」
大本はルパンを騙す為に神田を利用したことだったが、そんなこと言えやしない。
以前のパリ任務でルパンに唇を奪われたことに、見たこともない静かな怒りを見せていた神田だ。
ルパンを騙す為とは言え、自ら色仕掛けをしたことやキスしたことを話せば、拳骨の一つでは済まないのは目に見えていた。
(言ったら確実に殺される)
ぶるりと思わず身震い一つ。
流石に自分の命は惜しい。
「なんだ色々って」
「ええと…それは色々…ルパンと、次元の、こととか。任務上仕方なかったけど、あの二人にユウもつき合わせてしまったし…」
「……あいつは別にいい」
「あいつ?」
「黒髭のガンマン」
「…次元のこと?」
ようやく真正面に座る神田を恐る恐るとも見やれば、腕組みをしたまま窓の外に視線を送る姿が見えた。
頷きはしないが、該当する男は次元大介の他にはいないだろう。
確かに雪とルパンを助けに来た時、神田は次元と共にいた。
単独行動を好む神田が、赤の他人である次元と行動を共にしていたのは珍しかったが、目的が同じであれば造作もないこと。
しかし神田は、次元に対して負の感情は抱いていなかったらしい。
その事実に、雪はきょとんと首を傾げた。
あのハードボイルドであり頑固者であり多少の茶目っ気も持つ速撃ちガンマンと、神田は馬が合ったのだろうか。