第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「ん、しょ…」
固めた土を両手で叩き終え、ふぅと一息つく。
額の汗を拭って、雪はようやく手を止めた。
空は快晴。
昨夜の雨水で濡れた土はまだ湿り気を帯びていたが、崩れる心配はなさそうだ。
「これでゆっくり眠れるね。カーラちゃん」
今し方掘り起こした柔らかい土に手を置いて、優しく呼び掛ける。
宝を見つけ出し、事の真相を得たルパンと共に雪が向かったのは、ホテルから然程離れていない墓地だった。
其処にはルパンの読み通り、悲劇の花嫁アデーラの墓があった。
しかしガウティーリ家の墓標は複数見受けられるものの、カーラという名は何処にもない。
恐らくあの高い塔の小さな部屋でひっそりと、人知れず死んでいったのだろう。
「ちゃんとした墓標も作るからね、お姉さんの隣に」
「いいのか?そんなことまでさせちまってよ」
「いいよ。どうせユウが壊したホテルの壁は弁償しなきゃならないし…一つくらい、墓標代が増えたって室長は気にしないと思う」
サクリと芝を踏む足音。
後ろに立つルパンに顔は向けずに、雪は控えめに笑みを浮かべた。
彼女の生きた証を立ててやることに、あのコムイなら小言は向けないだろう。
「そうか。ありがとよ」
「なんでルパンがお礼言うの」
「なんとなく、だな」
腰を上げれば、隣に並ぶ。
その斜め上にある顔をちらりと見上げれば、普段のルパンらしかぬ優しい表情を浮かべていた。
「これでもう独りぼっちじゃないぜ。カーラ」
どこか哀愁も混じる柔らかい笑み。
それはこの温かい土の下に眠る、亡き少女にだけ向けられていた。
「…悲劇の花嫁には妹がいたのか」
墓から少し離れた場所で事を見守っていた次元が、ぽつりと呟く。
同じく背後の木陰に佇んでいた神田は、興味のない表情はしていたがその目は止めた。
「塔にあった家系図には載っていなかったみたいだけどな」
ぼそりと返した神田の言葉通り、ルパンと雪が宝の部屋で見つけたガウティーリ家の家系図に、カーラの名はなかった。
しかし褪せた小さな絵画が全てを物語っていた。
確かにガウティーリ家には、アデーラよりも幼い少女がいたのだ。