第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「死んでしまった人達の思いはわからないけどさ…多分、アデーラは心からカーラちゃんの無事を願ってたんだろうね。だから宝と共に誰の目にも止められないようにした」
家系図にさえもカーラの名が載っていなかった真意は、それではないのか。
愛する妹が、革命軍の手に脅かされないようにと考えた苦肉の策。
そうであれば、誰にも看取られず独りで死んだカーラの魂も、幾分か救われるのではないか。
簡素な木々で作った十字架を立てた墓を前に、雪は願うように呟いた。
「さぁな。死んじまったらそれまでさ。オレ達がどう憶測しようと、真実はわからない」
両手をポケットに突っ込み快晴を仰ぐルパンの表情は、雪からは見えない。
「でも雪がそう思うなら、それでいいんじゃねぇか」
「私がって…」
「今この時を生きているのはお前さんだ。雪がカーラにそう思いを馳せて、カーラの為に笑えるのなら、それでいいじゃねぇか」
下げたルパンの顔が雪に向く。
普段とは違うルパンの深い笑みを受けて、雪は開き掛けていた口を閉じた。
「死んだ者の時間はそこで終わりだ。その魂を知る者が、今後どう時間を繋げていくのか。そういうもんだろ」
「……ルパンにも…」
「ん?」
「そういう人がいたの?」
「………」
自然と浮かんだ疑問だった。
カーラを通じて、それこそ何かを思い馳せているようなルパンの声に、気付けばそう問い掛けていた。
「…そうだな」
微風が頬を撫でる。
優しい風の音以外に、届くのは今まで聞いた中で静かなルパンの声。
「いずれくるもんだとはわかってたしな…一人歩き出したオレ達に長いことつき合ってくれてたんだ。ようやく気兼ねなく眠れるようになってくれたと思ってる」
「…それは…」
誰のことなのか。
一瞬、不二子の姿が雪の脳裏に浮かびはしたがすぐに消えた。
ルパンとは深い仲ではないが、心を交わした同士。
少しくらいならルパンの心もわかる。
不二子の死に対して、彼はそんな穏やかな顔をしないだろう。