第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
チキリと手にした六幻が光る。
イノセンスを発動させ、白く光る刃。
「刀なんかでどうやって…てオイまさか」
ルパンには見覚えがあった。
顔の目の前に白刃を真横に添えて構える、神田の姿には。
「"災厄招来"」
背中から打つ洪水に足元を振らつかせることもなく、神田は淡々と詠唱した。
聞いたことのある言霊に、ルパンと雪の顔が引き攣る。
「雪ちゃん、オレ様凄く身に覚えがあるんだけど…アレ」
「奇遇だね、私もだよ…で、でもホラ今はあの時と状況は違うし!」
「だよなっ今回は雪連れて逃げ出してなんかねぇし!?寧ろ助けてんだし!!」
「二人とも、どうしたの?」
慌てふためきながら、どこか言い訳染みた主張をする。
そんな雪とルパンの心中察せず、カーラだけが一人首を傾げていた。
「界蟲、」
「やっぱり!」
「当てるなよ!?オレ達には当て」
「"一幻"!!」
二人の悲鳴を綺麗に無視した神田が、水中から跳び上がり様に六幻を振るう。
すると刃から幾つもの奇妙な白く発光した蟲達が飛び出した。
以前、パリの警察署で雪を連れて逃亡しようとしたルパンへ放った、神田の技である。
あの時は五ヱ門の斬鉄剣もすり抜け、ルパン達一行を襲った六幻の界蟲。
しかし今回、数匹の界蟲は声もなく体を畝らせると、一直線に鎖を繋げている壁へと牙を向いた。
衝突と同時に消える蟲達に、破壊された壁から鎖を押さえ付けていた杭が崩れ落ちる。
「うぉおわぁあー!?」
「ひゃあああ!?」
杭の下に繋がっていた鎖には、重い鉄球が取り付けられていた。
重力と杭が外れた反動で、瞬く間に下がる重りに、ルパン達の体が一気に塔の上へと持ち上げられる。
ギャギャ!と激しい悲鳴を上げる錆びれた鎖は、クレーンの激しい回転に火花を散らした。
それが決定打だった。
一気に摩擦と負担を掛けられた鎖は一度の回転で限界を迎え、ルパン達を引き上げたと同時に千切れたのだ。