第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「うぇえ!?」
「げ!」
更に青く染まるルパンと雪の顔。
握った鎖のすぐ上から先が切り離され、三人の体が宙に放り出される。
一気に巻き上げられた反動で宙に浮いている一瞬の好機を、しかしルパンは見逃さなかった。
「雪!カーラ!オレに掴まれェ!!」
「っ!」
「きゃあっ!」
咄嗟に少女の体を掴み、間に挟むようにして雪はルパンの胴体に抱き付いた。
同時にルパンの放った腕時計のワイヤーが、一直線に塔の一番上の小さな入口へと放たれる。
ワイヤーの先は上手く何かに巻き付けたのだろう。
ぐんっと引かれた三人の体は、反動で入口の中へと転がり込んだ。
「でェ!」
「んぷっ!」
「ぁたっ!」
ルパン、カーラ、雪の順に石床に着地する。
主にルパンを下敷きに着地したカーラと雪の悲鳴は、小さなものだった。
「ってぇ…!」
「っ大丈夫?カーラちゃん」
「う、うん」
「オレへの心配は無しかよ、雪ちゃーん…」
「大泥棒はこんなことで根を上げないでしょ?」
「それって褒められてるんだか、都合良く言われてるんだか…」
「勿論褒めてるよ」
どうやら皆、酷い怪我は負っていないらしい。
座り込むルパンと雪に、いち早く体を起こしたカーラが弾む声を上げた。
「二人ともっ見て、宝物よ!」
「え?」
「お宝?」
細い腕をめいいっぱい広げて紹介する少女の後ろには、幾つもの品々で満たされていた。
埃を被りくすんではいるが、食器や壺や棚など、どれも立派な装飾がされた物ばかり。
とうとう辿り着いたのかと、二人も腰を上げ宝の山へと歩み寄る。
ふとルパンの目が一点で止まった。
其処には、大きな絵画が壁に立て掛けられていた。
しかし二百年という年月は、絵画には決して優しい時間ではなかったようだ。
扉もない開放型の出入口が一つだけ。
その小さな部屋で二百年放置された絵画は、擦り切れ朽ち果て、何が描かれていたのかもわからない。
割れた壺。
錆びた食器。
傾いた家具用品。
足元に無造作に散らばっている金貨数十枚を除けば、其処にある物に"宝"と呼べる値打ちがあるかどうかも怪しい。
そして数々の品に埋もれた更に奥には───