第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「カーラ、しっかり掴まってろよ」
「うんっ」
「っあ…!」
「!」
小さな手で懸命に鎖を握るカーラより、危機的なのは雪だった。
血が滲んだ掌は鎖を持つ手を滑らせたのだ。
再び重力に引かれる体を間一髪引き止めたのは、伸ばしたルパンの左手。
ぶらりと揺れる雪の体を、繋いだ手で支える。
「放すなよ雪…!」
「っう、ん…!」
ドドドドド!
激しい滝のような激流はすぐそこにある。
雪の足を捕えようと水飛沫を上げる激流を視界に、ルパンは歯を食い縛りその体を持ち上げた。
どうにか雪の無事な左手が鎖へと届いた姿を見届けて、ほっと息をつく。
「ルパァン!ゴボッ!」
「この…っ覚えてろよぉおお!」
「ありゃま…」
洪水に押しやられ城の崖下へと流されたマーマ一家が、遠目に小さく映る。
大量の水のお陰でクッションとなり無事だった悪党三人に、ルパンも思わず笑いが漏れた。
「やっぱりおマヌケ強盗団だねぇ」
「それよりルパン…っ」
「ああ。この鎖を伝ってお宝まで向かいたいところだが…これじゃあロープの代わりにもなりゃしねぇ」
しかし平穏はまだ遠い。
三人の体重を乗せた鎖が、ギシギシと嫌な音を立て揺れる。
恐らく二百年前からこの場で晒されてきたのだろう。
日々の日照りや雨水に打たれ続けた鎖は、すっかり茶色へと変色し錆び付いている。
三人の体を支え続けるには衰え過ぎていた。
いつ切れても可笑しくない鎖が、尚も弱々しく悲鳴を上げ続ける。
「どうするか…っ」
とてもじゃないが、塔の天辺まで上り切るのを待っていてくれそうにもない。
「二人とも!あの杭を外すのっ!」
苦々しく唸るルパンに、声を張り上げ応えたのはカーラだった。
少女が指差したのは、クレーンのような機械から垂れ下がっている鎖の行き着く先。
それはルパン達が飛び出した崖の僅か下の壁に、杭で繋がれていた。
「杭って、あれっ?」
「つってもこの距離じゃ…!」
杭には到底手は届かない。
「お前らはそこで大人しくぶら下がってろ」
ざぶりと水を踏む黒いブーツ。
「俺がやる」
応えたのは、勢いを弱めつつも未だ滝として流れる水の中に立つ、神田だった。