第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「すご…ルパンより速い」
「ったり前だろ」
「何言ってんだ次元!オレの方が速いっての!」
しげしげと次元を見上げ感嘆する雪に、ニィと次元は得意気に笑いルパンは肩を怒らせる。
銃弾一つでマーマの巨大なガトリングガンを落としたのは、ルパンには真似出来ない技だろう。
「でも此処にユウの通信機があるってことは…」
「これで三対四、だな」
「………」
後ろを振り返る次元に、鞘から僅かに抜き出した六幻を手にした神田が、通路の奥から姿を見せた。
手を出す前に次元に見せ場を奪われたからか、眉を潜めてはいたが無言で再び刃を鞘に収める。
「兄ちゃん、あれ五ヱ門じゃないよ」
「誰だ?あいつ」
意外にも神田の出現に興味を持ったのは、マーマ一家だった。
見慣れた斬鉄剣の持ち主ではないことが、余程珍しかったらしい。
「なんだい、ルパン。新しい剣豪でも仲間にしたのかい?」
「いや、あれは剣豪というより殺人鬼というか…」
「女だって峰不二子から乗り換えたにしては、趣味が悪くなったじゃないか」
「…あ?」
「あ、その辺にしておいた方が身の為よ。雪ちゃん関係地雷だから。あの殺人鬼」
負け惜しみなのか、苦し紛れにでも嫌味を飛ばすマーマに、ピンと空気が張り詰める。
神田の漏らした殺気が概ね原因だろうが、ぶるりと体を震わせたブッチとデールは怯えたようにマーマへと張り付いた。
「マーマ、これって大ピンチじゃない?」
「どうしようマーマ…!」
「泣き言を言うんじゃないよ!っ…ルパン、あたし達は強盗と泥棒。謂わば親戚みたいなもんだろっ?」
「そーかぁ?」
「あたしの書簡のお陰でこの城に辿り着いて、ルパンのお陰でお宝の目の前まで辿り着けた。どうだい。ここは一旦協力して、共に宝を手にしようじゃないか」
宝は山分けにしよう、と誘ってくるマーマに、ルパンは口元を緩めた。
これが不二子相手であれば、嘘八百だとわかっていても乗っただろう。
しかし。
「悪ィな。もうそんな悠長な時間ないのよねぇ」
「は?」
残念そうに笑顔を浮かべると、ルパンはワルサーを持つ手とは別に懐へと手を忍ばせた。