第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「いやっ放して…!」
「こらッ暴れるなよ!」
「兄ちゃん、僕が…あだぁーッ!?」
「あ!待ちやがれッ!」
マーマ一家の手により再び塔の見える崖へと連れて来られたカーラは、渾身の力でブッチの腕を振り解きデールの腕に噛み付くと、小さな足で懸命に駆けた。
「全く、何やってんだい!小娘一人も捕まえておけないのかい!?」
「ご、ごめんマーマ!」
「すぐ捕まえるからッ!」
マーマに捲し立てられ慌てて追う息子二人の足は、すぐさまカーラを追い詰めた。
小さな少女の歩幅に追いついたからではない。
カーラが逃げた先が、通路の奥ではなく崖先だったからだ。
「兄ちゃん、こっちは任せて!」
「へへ、もう逃げられねぇぞ…!」
「っ…」
「丁度いい。宝はこの上にあるんだ。どうやってあそこまで行くのか、小娘に実演してもらおうじゃないか」
じりじりと後退るカーラの体が、通路内から外へと迫り出す。
朝日が近いのか、薄らと明るくなっていく空がカーラの青いドレスをぼんやりと浮かび上がらせた。
宝の居場所はもうわかっているのだ。
後は通行手段だけだと迫るマーマに、カーラは震える手をぎゅっと胸の前で握った。
「っ…雪…ルパン…」
泣きそうな声で漏れたのは、唯一少女が心を開いた二人の名。
「ハン、あいつらはもう死んだんだよ!」
「そーだそーだ!」
「もうお前を助ける奴なんて何処にモゴォ!」
「兄ちゃあぁああん!?!!」
囃し立てるブッチの頭が急降下したかと思えば、地面に顔面から直撃した。
理由は一目瞭然、彼の頭を後頭部から踏み付けた者がいたからだ。
腕に巻いたネクタイが、重力でふわりと宙に靡く。
通路の階段の上から飛び降りた女は、ブッチの頭を片足で踏み付けたまま、ふぅと顔を上げた。
「はい参上」
其処に立っていたのは、先程カーラが呼んだ者。
「お前は…死んだはずじゃ…!」
「カーラちゃんに呼ばれたからには、ね。ルパン?」
「もっちろん」
「に、兄ちゃんから離れっ!?」
ガァン!
慌てて得物を取り出すデールの手元から、拳銃が弾け飛ぶ。
ブッチを踏み台にした雪が向けた視線の先には、ワルサーを構えたルパンが笑っていた。