第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「前に言っただろ?オレにはスリルのない人生程、つまらないもんはないのさ」
果たしてそれが本当の答えなのか。
真意はわかり兼ねたが、飄々と笑う顔からそれ以外の答えは聞き出せそうになかった。
「そう言う雪は?なんで幽霊嫌いなのに、こんな仕事やってるんだい?」
「……私は…」
その道しかなかったから、と言うには躊躇われて。
ルパンの笑顔の意味が、ほんの少しだけ理解できた気がした。
理由など、所詮後付でしかないのだ。
「確かに、スリルはある仕事かもね」
そう笑う雪に、深く追求することなく、だろ、とルパンもまた笑う。
「それよりルパン、兎に角カーラちゃんの所に急ごうっ」
しかし今はそれどころじゃないと、頭を切り替えるように首を振る。
「ルパン?何ぼーっとして…」
「いやな。これが気になって」
「これって…水路?」
しかし急かす雪に対し、ルパンは先程使用した水路を興味深く見つめたまま。
巨大な水路はまるで一つの川のように、静かに波もなく通路の横に存在している。
「こんな所に水路たぁ、洒落た造りの居城じゃねぇの」
「そういえば、なんでこんな隠し通路に水路なんか…」
「このホテルの周りは、意図的に掘られたような崖になってただろ。あれが要因さ」
「あの崖が?…あ」
「気付いたか?」
恐らくこの大量の水は、城の周りを満たす為のもの。
二百年前には美しい湖のように、城の周りを覆っていたのだろう。
「水路の意味はわかったけど、今それ注目する必要ある?」
「ふんふん、成程…」
「ルパンってば!」
水汲み用の水車や周りの仕組みを興味深く観察するルパンの腕を、強く引く。
今はそんなことをしている場合ではない。
「っ…もういい、私一人でカーラちゃんを助けに行くッ」
「あ、おいっ待って行くから!一人で行くなよ雪!」
先に諦めた雪が顔を背ければ、ようやくルパンもその後を追った。
二人の去った水路に静寂が戻る。
カコ、ン…
ただ一つ、びっしりと苔を生やし役目を失くした古い水車が、微かに動いたことだけを除いて。