第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「っ…仕方ねぇ…雪!お前に任せる!好きな方を選べ!!」
「そ、そんな…だって間違えたら…っ」
「いいさ、雪が選んだ答えなら」
渾身の力で押し上げてはいるのだろう、辛い表情を見せながら、それでもルパンは笑った。
「お前になら命を預けられる」
「ルパン…」
「二人で果てるなら、それも本望だ」
雪に優しく笑いかけるルパンの表情には、偽りなど見えない。
じっと彼の表情を見上げていた雪は、意を決したように拳を握りしめた。
「私は無理!!」
「へっ?」
「しっかり生きて、ユウに世界を見せて、おばあちゃんになってから布団の中で成仏するの!こんな所でルパンとあの世行きなんて願い下げだァ!!!」
「えぇ〜…そりゃないぜ雪ちゃん…」
ルパンの嘆きにも目を暮れず、勢い良く雪が飛び付いたのは城と獅子、両方の紋章だった。
両手をそれぞれの穴に突っ込む。
すると右腕にまるで牙に噛み付かれたような、鋭い痛みが走った。
「つぅ…!」
「雪!?どうした!」
「右がトラップ、となれば…!」
左手を突っ込んだ城の紋章が正しい道だったのか。
右腕には構わず、更に左手を奥へと進める。
「く、もう…駄目、だ…!雪!」
「待って、もう少し…!何かが指に…!」
迫る天井は最早すぐ真上。
雪と同じように這いつくばる姿勢しか保てなくなったルパンが、危機的状況を知らせる。
それでも雪は一心不乱に、左手の指先に微かに触れた冷たく硬い何かを手繰り寄せた。
「ん、の…!」
捉えた何かを左手の渾身の力で引く。
ガコン!と重い音が響いたかと思うと、肉ミンチ化数秒前だった迫る天井がピタリと急に止まった。
「は……と、止まった…?」
「はぁあああ…間一髪…」
「良かったぁ…!」
恐る恐る顔を見合わせた後、盛大に二人して安堵と脱力の溜息。
雪が引いた穴の中の鎖が、解除スイッチとなっていたのだ。
ゆっくりと再び上がっていく天井に、へなへなと二人してその場に座り込む。