第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「しっかし迷路みたいだな…ルパンと雪が此処にいる可能性は高いがよ」
石造りの冷たい通路内。
なんとなしにぼやいた次元の言葉に、神田はぴくりと反応を示したがそれだけ。
返答もなく黙って歩く姿に、しげしげと次元は目を向けた。
その僅かな反応の違いを見分けられない程、伊達に秒速のガンマンの腕は持っていない。
「大分雑な性格をしちゃいるが、本当に大事なんだなぁ」
「…なんのことだ」
「雪だよ雪。あんたに多少にでも残ってる真心ってもんは、全部雪に向いてるんじゃねぇか?だからそんなに他人に興味ないんだろうよ」
「勝手に決め付けるな」
「否定はしないだろ?」
「………」
「くっくっ、あんたのそういうところは人間らしいな」
ようやく向いた神田の表情には、ありありと不快の文字が刻まれている。
それでも否定しないところ、根は真っ直ぐな男なのだろう。
関わったことはほとんどないが、易々と嘘を付くような男には見えない。
「ルパンとは正反対だ」
面白いくらいに水と油な二人だと、つい次元にも笑いが漏れる。
「…あの猿は、いつもああなのか」
「猿?ルパンか?」
「女に対するチャラけた態度だ」
「ああ。特に美人を見つければな。いつもあんな調子だ」
「…雪はその類に入らねぇだろ」
「お?言うな、自分の女なのによ」
確かに神田の言う通り、雪は誰もが目を見張る美女の類ではない。
峰不二子に見慣れている次元も認めはしたが、遥かに不二子より好感は持てる女だとも認めている。
「男と女は別物だからな。女ってだけであいつには慕うべきもんなのさ」
「………」
「なんだ、不服そうな顔して」
「…別に」
「心配しなくても、雪はあんたに…おっと」
「? なんだよ」
「いや、止めとく」
「あ?」
売り言葉に買い言葉だとしても、神田以外の男は要らないと豪語した雪の想いは本当だろう。
わざわざ伝えることもないかと、次元は開き掛けた口を閉じた。
元々、他人の色恋沙汰には干渉しない性質。
下手に掻き回して此方に火が及ぶことは願い下げた。