第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「おっと、動くんじゃないよ」
其処には連射可能な巨大なガトリングガンを構えた、中年のふくよかな女が立っていた。
毒々しい赤いドレスに首周りが分厚い毛皮に覆われた、ゴージャスな白いコート。
濃いメイクに浮かぶ笑顔は、挑発的できついものだ。
「あたしはこいつら程間抜けじゃないからねえ」
そう笑った女の後ろから、銃を構えた二つの影が飛び出す。
先程ルパンと雪が捕えたはずの、ブッチとデールだった。
「そ、そんなこと言わないでよマーマ!」
「そうだよ!オレ達もそれなりにやっ」
「お黙り!!!」
「ひゃあ!」
「ごめんなさい!」
マーマと呼ばれた女の一喝に、縮み上がる男二人。
どうやら家族であっても、完全なる主従関係が出来上がっているらしい。
「わかってるよ、マーマ」
そんなマーマに、同じく好戦的な笑みをルパンは向けた。
「やはりあたしの目に狂いはなかったね、ルパン。あんたに任せてたら勝手に宝へと案内してくれる」
「強盗団の頭ともあろうマーマが、泥棒に頼らなきゃ宝の一つも探せねぇのかい?」
「…あんたは息子達と違って、頭の切れる嫌味な奴だよ」
絶えずルパンを狙っている、幾つもの黒光りする銃口。
一度で連射して複数の人間を狙える殺傷能力の高い銃相手では、一歩動くのも命懸けだ。
「そういう奴には、知恵比べするより力で捩じ伏せるのが一番だ」
「…あれがマーマ?」
カーラの盾になりながら、眉を潜める雪。
そんな雪の姿に、またもマーマはハンと鼻で笑った。
「こんな所でデートだなんて、気が知れないね」
「そうかい?雪は良い女だぜ」
「そんな色気の欠片もない女がかい?笑わせるんじゃないよ」
「む…」
不快な表情を浮かべる雪には、目も暮れず。
真っ赤な口紅を塗りたくった口角をつり上げて、マーマは誘うように手を拱いた。
「どうせならあたしとデートしようじゃないか」