第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
幼い少女に案内されるままに進めば、カラクリのような仕掛けには一度も掛からなかった。
石造りの通路は奥へ進めば進む程迷路のようで、しかしカーラは迷い無く小さな足を進めていく。
10歳そこらの少女にとって、通路は庭のようなものなのだろう。
人には怖がる素振りを見せるが、この薄暗く冷たい場所を怖がっている様子はない。
「宝物はね、ここにはないの」
「もっと地下か?」
「ううん、その逆」
「逆って…上?」
「行けばわかるよ」
やがて辿り着いたのは、月明かりの差し込む小さな出口だった。
ホテルへ来た時には打ち付けるような雨と激しい雷が鳴っていたが、いつの間にか止んだらしい。
雨上がりの湿った夜の空気が、三人の体をしんみりと冷やす。
「此処は外じゃねぇか」
「他に道は何処にもないね…本当に此処なの?カーラちゃん」
小さな出口を一歩踏み出せば、道はそこまでで途切れていた。
ホテルの壁から外に迫り出している小さな足場があるだけで、他に道などはない。
下を覗けば、ホテルの周りの切り立った崖の底が見える。
「宝物はこの上。塔のてっぺんにあるわ」
つい、と指差すカーラの手の先を雪とルパンの目が追う。
上は円柱の小さな高い塔があり、一番上には人が二、三人通れそうなくらいの小さな入口が見えた。
「中からは登れない。ここからじゃないと、塔の上には行けないの」
「此処からって…まさかこの壁をよじ登るの?」
円柱型の壁には所々に苔が生えており、掴まれるような突起物も見当たらない。
翼のない人間に果たして辿り着ける場所なのか。
「これじゃあ上に辿り着く前に、地面と仲良くお陀仏になっちまいそうだな…」
「どういう方法で行くの?カーラちゃん」
「あたしも知りたいねえ」
ガチャリと重たい鉄の枷を外す音。
唐突に舞い込んできた第三者の声は、これで二度目だ。
振り返ったルパン達の目に、ブッチとデールの時より大きな銃口が目に映る。