第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「ほらここ!」
カーラが指差した先には、確かにルパンが落ちたものと同じ形の穴がある。
連動する仕組みなのだろうか。
雪は壁に設置されていた使われていない松明を抜き取ると、穴へと駆け寄った。
「ルパン!」
「行き止まりかよぉおお!?!!」
ルパンの目にも通路の最後が見えたらしい。
このままでは丸太に潰される鼠の運命。
悲鳴のような雄叫びを上げるルパンが駆けてくる様を目にして、雪は松明を穴から差し込んだ。
「あれやって!ルーヴル美術館で私から逃げた時の!」
「!」
見えた松明と雪の言葉に、瞬時に理解したルパンは走りながら手首の腕時計へと手を伸ばした。
仕掛けを押せば、大の大人の体重も支えられる強くて細いピアノ線のようなコードが、しゅぱんっと腕時計から飛び出す。
正確な狙いで松明をぐるりと囲い巻き付くそれに、雪は抱くようにして松明を握ると穴から背を向けた。
「そぉ、れ…ッ!」
渾身の力で走り抜けば、巻き付いた衝撃で伸縮性のあるコードが一気に縮まる。
同時にルパンの体は、穴の外目掛けて飛び上がった。
ドゴォンッ!!!
円柱が壁へと激突し、壁へと半分以上めり込む。
まるで建物を震わすような轟音が響き、天井から埃が一気に舞い落ちた。
「ゲホッ…ルパン!無事…!?」
埃に咳き込みながら青いジャケットを必死に捜す。
「はぁ…間一髪だったぜ…」
雪に応えるように、腑抜けた声がぼやく。
舞う埃が静まれば、言葉通り間一髪穴から抜け出したルパンが、その場に座り込んでいた。
「にしても助かったぜ、雪」
「私だけじゃないよ。カーラちゃんがあの穴の存在を教えてくれたから」
「大丈夫?…ルパン」
雪の声掛けに、恐る恐る歩み寄ってくるカーラ。
座り込んでいた腰を上げると、ルパンは穏やかな笑みを少女に向けた。
「そうか。カーラのお陰で助かった。ありがとよ」
「ううん…雪が、いてくれたから」
そう行って小さな手が再び雪の手を握る。
まだ不安げな印象を持たせてはいるが、少しでも心を開いてくれた様子のカーラに、雪もまた口元を綻ばせた。