第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「ごめんね、急に驚かせて。でも私達は怪し…私は怪しい者じゃないから」
「なんでそこ言い直したの?」
「泥棒は完璧不審人物です」
「あらら、酷いこと言ってくれるじゃないの。オレから見れば謎のアクマってやつと戦争してる教団ってのも、充分怪しいけどな」
「……あたしのこと、怖くないの…?」
「ん?」
「え?」
恐々とだが逃げずに問い掛けてくるカーラに、ルパンと雪の目が止まる。
幼き少女は間近で見ると、おかっぱ頭に小さなティアラをしていた。
小さいが銀の装飾が丁寧な一品だ。
「いや、怖くない怖くない。てか可愛い♡」
「こらっ幼女に手出すの禁止っ」
「手なんて出してねぇよ。なに、雪ちゃんヤキモチ?」
「あははは何そのジョーク」
「そーんな棒読みで笑わなくたって…オレ様もちったぁ傷付くぜ?」
「じゃあほいほい女の子と見れば軟派しないの」
「え…えと…」
「あ、ごめんねカーラちゃんっ」
二人の勢いに呑まれてまごつくカーラに、ぱっと意識を切り替えた雪は優しく声を掛けた。
「しっかしこんな所で一人ぼっちだなんて、支配人も酷ェことしやがる…」
「カーラちゃん、もしかして私達を追って此処へ来たの?」
「…うん…」
「そっか」
となればやはり、カーラはホテル側の人間であったのだろう。
そっと雪が手を差し出せば、じっと見返したカーラの小さな手が触れる。
確かな人の手の感触に、雪もまたほっと肩を落とした。
「怖い人たちだと思ったけど、違ったみたいだから…」
「怖い人達?その人達は、以前も此処に来たの?」
「…うん…だから、お姉ちゃんが隠れていなさいって…それで、ずっとここに…」
「成程ね」
となるとクローゼットに潜んでいた花嫁の亡霊に扮した少女が、カーラの姉なのだろう。
「兎に角カーラ、おいたしないでおうちに帰りな」
「え?」
「オレ達は怖い大人じゃねぇし。それにおじさん達はお前さんの相手をしてる程、暇じゃあないの。雪、行こうぜ」
「でも…こんな幼い子を、一人で置いていけないよ」
ルパンにとって優先すべきものは、宝らしい。
あっさり身を退き別の道を進むルパンに、しかし雪は繋いだカーラの手を離さなかった。