第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「幽霊が逃げ出してどうすんだよ。配役間違えてねぇか?」
「配役って」
「言っただろ、ホテルの人間が仕組んだんだって。ありゃどう見てもただの子供だ」
ルパンの言う通り、確かに少女からは薄ら寒い気配などは感じない。
ましてやイノセンスの特徴もない。
何より次元と共に見たクローゼットの中の少女とは、背格好も雰囲気も違って見えた。
「確かに、あれは私が見た花嫁の幽霊じゃないかも…」
「本人も言ってただろ。アデーラの妹だってよ。行くぞ」
「あ、待ってッ」
カーラと名乗る謎の少女。
アデーラの妹とあらば宝と関係している可能性もある。
少女を追うルパンの後に続いて、雪も石造りの階段を駆け上がった。
「また見失うかも…!」
「今度ははっきり姿を見せたんだ。見失わねぇさ!」
ルパンの読み通り、今度は謎の少女は忽然と姿を消したりなどしなかった。
入り組んだ通路を知った顔で逃げ回るが、相手は歩幅の小さな子供。
すぐにその姿を捉えることができた。
「雪、こっちだ」
「むぐッ」
しかし角を曲がり怯えたように壁際に身を隠す少女に、ルパンは何を思ったのか足を止める。
雪の口を塞いだかと思うと、曲がり角の前の通路に引っ張り込んだ。
足音が止み、シンと静まり返る薄暗い通路。
消えたと思ったのか、恐る恐る角から顔だけ覗かせるカーラに、ふと掛かる一つの影。
「ばあっ」
「きゃあッ!」
ぬうっと天井から落ちてきたのはルパンの顔。
忽ち少女の口から高い悲鳴が上がった。
「驚かすならこれくらいしねぇとな♪」
天井の鉄パイプに両足を引っ掛け、逆さまに宙ぶらりんと揺れるルパンが笑う。
軽い身のこなしで一回転してすたんと下りてくる姿に、カーラは丸い目を更に丸くした。
「幼気な少女をビビらせるとか…悪趣味」
「そう言うなよ。雪をたっくさん怖がらせた借りを返したまでさ」
「ぅ。そ、そこまで怖がってない」
「そうだっけ〜?」
ひょこりと通路から姿を見せた雪が、反論しつつカーラにゆっくりと歩み寄る。
怖がらせないようにと、両手を軽く挙げて距離を縮めた。