第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
背後の強い雷の光で、逆光となり顔はわからない。
しかし階段上に立つその人影は、確かにドレスを纏う少女のものを象っていた。
「へえ。あれが」
雪とは違い、突如現れた謎の少女にルパンはニヤリと口角をつり上げる。
「ようやくおいでなさったか、花嫁の幽霊ちゃん」
「やっぱりルパンにも見えてる?」
「ああ。こんばんは、アデーラだっけ?」
「って普通に話しかけてる!」
「そりゃあレディの前に出たらな。自己紹介するのが基本だろ?」
恐々と傍に寄る雪を背で庇いながら、ルパンは明るい声で幽霊に呼び掛けた。
そういえば自分と出会った時もそうだったと、初対面のルパンを思い出しながら雪は納得した。
謎めいた相手であっても、女であれば彼の態度は一貫しているところがある。
「あれが雪と次元が見た花嫁か?」
「わ、わかんない…顔まではっきり見た訳じゃないから…」
「…アデーラはお姉ちゃん…」
「お」
「!?(喋った!)」
雷の光が弱まる。
雷鳴が収まれば、小さなか細い少女の声をルパンと雪は拾った。
まさか幽霊が喋るとはと、身を寄せルパンの服の裾を掴む雪と相反し、ルパンは変わらない笑顔を向けた。
「じゃあ君は?」
「…あたしはカーラ」
逆光が消え、薄暗い中でも辛うじて見えたのは10歳程の幼い少女だった。
ブラウンのおかっぱ頭に、グリーンのあどけない瞳。
ルパンに尋ねられ答えはしたものの、はっと慌てたように小さな両手で口を塞ぐ。
「そっかそっか、カーラか。オレはルパン。こっちは雪ってんだ」
「!?(本当に自己紹介してる!)」
「しっかし花嫁の幽霊にしては、幾らなんでも無理があるぜ…ありゃまだ子供じゃねぇか」
愛想良く笑い掛けるルパンに、驚いたのは雪だけではない。
口を塞いだまま、後退る少女。
「あっ」
「おいおい」
くるりと背を向けたかと思うと、少女は一目散にその場から逃げ出した。
カツカツと響く小さな足音が、雪が先程聞いた謎の足音と重なる。