第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
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「怪我はねぇか?」
「ぅ、うん。ありがとう。でもなんでルパンが此処に…」
「そりゃあ迷い猫を捜しに来たのよ。雪ちゃんったら急にいなくなるんだから」
「ぅ…ごめん。でもどうやって此処にいるってわかったの?まさかルパンも転がり落ちた?」
「ちょいとばかり違うな。雪みたいに誤って此処に来た訳じゃねぇし」
そう言って引き上げた雪の後ろの、ぽかりと空いた穴を見る。
ルパンに習って底を覗けば、真っ暗な穴の中に微かな明かりが見えた。
「あれは…外?」
「ご名答」
長い落とし穴の底には、岩と緑の草原が見える。
どうやら穴はホテルの外へと続いていたらしい。
「この隠し通路はどうやら、侵入者への対応策だな」
「ルパンみたいな泥棒相手とか?」
「まぁそれも含めて、だろうよ。ガイドブックにあった客達は、雪みたいに幽霊でパニクってるうちに、ここから外に転がり落ちてたって訳だ」
「ぅ。そ、そんなパニクってなんか…」
「でもビビってたろ?また花嫁の幽霊でも見たのか?」
「………多分?」
「たぶん?」
「見たくないけど、仕事上は見なきゃいけないというか…」
「へえ。葛藤してんのねぇ」
「大変なんです」
もう一度凹凸のある小さな足場を踏めば、落とし穴は閉じ石の床となった。
恐らくそんな仕掛けが幾つもあるのだろう、深呼吸を一つすると雪は周りに神経を張り巡らせた。
「ルパンは何も見なかった?さっきまで小さな足音みたいなものが聞こえてたんだけど…」
「オレは雪の足音しか聞こえなかったぜ?血相変えて階段を駆け上がるもんだから、慌てて追い掛けたけど」
「…そういえば、どうやって此処へ来たの?ユウは?」
ようやくそのことに気付いた雪が辺りを見渡すが、その場にある気配はルパン一つだけ。
神田の姿は何処にも見当たらない。
「あいつは此処にはいねぇよ。オレ一人で来た。…というか一人でしか来れなかったというか」
「どういうこと?」
眉を潜める雪に、ルパンは軽く肩を竦めた。