第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「っはぁ…は…っはぁ…?」
両手を膝に付いて息を乱しながら、辺りを見渡す。
駆け上がった階段の先には、再び長い石造りの通路が続いている。
真っ直ぐに続いた通路に隠れる場所などはない。
しかしぴたりと止まった小さな足音の主は、何処にも見当たらなかった。
「……なんで…」
まるで足音だけが存在していたかのように、音と共に忽然と全ての痕跡が消えた後。
気配の一つも感じられない。
(でも青い洋服が見えた気がしたけど…)
階段を駆け上がり追い掛ける際に、確かに一瞬目にした青いドレスの端。
あれは足音の持ち主の服ではかったのだろうか。
酸欠状態の脳に大きく深呼吸して酸素を取り入れると、やがて頭の回転は加速し一つの結論を導き出した。
「………まさか」
悲劇の花嫁アデーラは、青いドレスを身に纏っているとルパンは言っていた。
もし先程見たドレスが、彼女のものだとしたら。
「…っ」
サァ、と雪の顔色がドレスと同じく青いものへと変わる。
確かに幽霊の調査には来たが、こんな雰囲気満々の場所で一人、再び花嫁の霊に会うなど全力で遠慮したいところ。
先へ進むべきか後へ退くべきか。
逃げ道すら見つけられない状態で、ふらりと頼りなく壁に手を付いて踏み込んだ。
カチリと何かを踏んだのは、その直後。
「え?」
床を確認する前に、がくんっと足場を失う感覚。
通路へ転がり込む時と同じ感覚に咄嗟に後ろへ跳ぼうとしたが、時既に遅し。
足場を失くした雪の体は、ぽかりと空いた真っ黒な穴へと吸い込まれた。
「っとォ!」
がくんと再び体が揺れる。
同時に一瞬浮いた浮揚感は、一気に体に重力をかけた。
「セーフッ」
頭上から降ってくる明るい声。
見上げた雪の目に映ったのは、先程追い掛けていたものと同じ青い服。
しかし女性もののドレスではなく、真っ青なスーツのジャケット。
「ルパ、ン?」
真っ赤なネクタイと合わせて着こなしている男は、雪の片腕を握りしめたままニィと笑った。
「雪ちゃん、見っけ♪」