第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「ただの抜け道、って訳じゃなさそうだけど…」
カツン、カツンと雪の足音だけが石造りの通路に響く。
石造りと言っても無造作に掘られた横穴ではなく、丁寧な装飾を施して削られている通路。
居城の名に恥じぬ造りは、ガウティーリ家が繁栄していた頃に出来たものなのか。
薄暗い通路を一人、雪は歩き続けていた。
「にしても何処まで続いているんだろ、これ…」
しかしいくら歩けど出口など見当たらず。
入り組むように右へ左へと道を増やし続けている。
これでは迷ってしまうだろうと、別れ道の度に壁に印は付けてきたが、既に心は迷い人気分だ。
(無事に出られるのかな…)
神田がいれば、実力行使で壁を斬り裂き脱出することもできるだろう。
しかし小さな小窓にも頑丈な鉄格子が付いている通路では、雪一人では脱出できない。
とぼとぼと歩く足にも覇気がなく、カツンカツンと響く足音は心細さを感じせる。
───カツン、
「!」
そこへ別の誰かの足音が聞こえたなら、希望のようにも思えるだろう。
弾けるように顔を上げた雪の耳に、確かにそれは聞こえた。
知らぬ者の足音。
カツ、カツン
一つ、二つと歩幅は小さい。
「あ、あのっ」
思わず見知らぬ足音に声を掛ければ、ぴたりとそれは止んだ。
入り組んだ目の前の道の奥にその正体はあるのか。
一歩雪が踏み出すと、突如カツカツと小さな足音が駆けていく。
此方へ近付く音ではなく、逃げるように遠ざかる音で。
「! 待って!」
慌てて雪も追い掛けた。
走れば相手は小さな歩幅。
どんどんと音が近付いてくる。
追い付けると踏んだ雪は息を切らそうとも、更に強く地を蹴り上げた。
やがてぐるぐると円を描くようにして上がる螺旋状の階段に辿り着いた。
カツカツと階段を駆け上がる小さな足音が、すぐ目の前まで迫る。
石造りの中央の柱の端から、青いドレスの切れ端がひらりと見えたような気がした。
「逃げないで!」
強く呼び止めれば、ぴたりと止まる小さな足音。
同時に雪の足は、階段の一番上まで駆け上がっていた。