第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「ふぅ。…ん?」
すっきりした面持ちでトイレから出てきた次元の目に、ピカピカと光る何かが映る。
見ればそれは、ポケットに押し込んでいた小さなイヤリングから発せられていた。
「こいつは…雪から預かった───」
『ピピッ!』
「うお!?」
取り出したイヤリング型通信機に、突進するかのように飛び付いてきた丸い物体。
思わず取り落としたイヤリングは、その丸い物体が器用に空中でキャッチした。
見開く次元の目に映ったのは、ツルツルの丸いボディに大きな一つ目を宿した、蝙蝠のような羽を生やした謎の物体。
「な、なんだ?」
「其処にいやがったか」
「あんたは…」
暗い廊下の中から姿を現した神田の姿に、次元は唐突に思い出した。
この蝙蝠型の謎の物体は、以前パリで神田達と出会した際に彼らが連れていた代物だ。
「雪を見てねぇか」
「雪?あんたらといたんじゃねぇのか?」
「……消えた」
「消えたァ?」
素っ気ない態度は相変わらずだが、どこか急ぎ焦っているようにも見える。
そんな神田に逆に問い質せば、返されたのは予想外の返答。
消えたとは一体、どういうことか。
「俺みたく用を足しに離れたって訳じゃなさそうだな」
「…急に廊下に謎の霧が立ち込めたかと思ったら、あいつの気配が消えたんだ。だから捜して回ってる」
「成程…ん?それで、ルパンは?」
わざわざ別れて雪を捜しているというのか。
しかし雪を見失った直後に、二手に別れるのは決して良い判断だとは言えない。
神田の背後を覗き込むようにして、見当たらない相方に次元が首を傾げれば、神田は更に眉をきつく潜めた。
「……あいつも消えた」
「はぁっ?」
更に予想を上回る返答に、次元が素っ頓狂な声を上げたのは0.1秒後。
早撃ちガンマンならではである。