第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「いったた…」
硬い石のような地面に顔を押し付けたまま、雪は小さな悲鳴を上げた。
急に足場を失くし、背後から転がり落ちるように落下した。
バウンドした体は日頃鍛えていたお陰か然程ダメージは受けていないが、全くの無傷でもない。
「急に何が…あっ」
頭を擦りながら体を起こし辺りを見渡す。
その前に、落下する際に落としてしまったのだろう、次元から取り上げたワインボトルで目が止まった。
雪とは違い落下の衝撃に耐え切れなかったそれは、見事に中身をぶち撒けて無残に割れていた。
「あちゃ…今度こそ次元に怒られるかも…」
どう見ても取り返しのつかないワインの残骸に呟くも、突っ込む神田とルパンの声はない。
「…ユウ?ルパン?」
そこでようやく、雪は自分の置かれている立場を理解した。
右を見ても左を見ても、石造りの暗い通路しか見えない。
どうやら霧の中で足場を失くしたのは、この見知らぬ通路に転がり落ちた所為らしい。
「(もしかして…)…隠し通路?」
ルパンの言っていた通路は本当にあったのか。
どう見てもホテルの内装には見えないそこに、雪は恐る恐る立ち上がった。
通路に明かりはなかったが、小さな鉄格子の窓の外は雷で不規則に照らされている。
ゴロゴロと唸る雷鳴に肩を竦めながら、雪は壁に手を添えて辺りを見渡した。
「ユウー!ルパーン!じげーん!?」
呼べど、やはり返答はない。
どうやら彼らと離れ離れになってしまったらしい。
通信機は次元に預けてしまったが故に、神田と連絡を取ることもできない。
「…どうしよう…」
天井を見ても床を調べても、出入口らしきものは見当たらない。
じっとその場に待機していても、解決策が自ら現れることなど無いに等しい。
となると進むべきは一つ。
「っ…」
ホテルよりも更に暗い通路の奥底に向かって、雪は恐る恐る踏み出した。