第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
(敵襲か?)
腰に差していた六幻の鍔に親指をかける。
しかし殺気などは感じない、霧の漂う元を神田は睨み付けた。
「二人共動くなよ、何が起こるか───」
───ふふ…ふふ…
「っひゃあ!?」
警戒する神田の声に被さるように、霧の漂う奥底から響く女の笑い声。
堪らず跳び上がった雪の手は、抱えていたワインボトルを取り落とした。
「お、お酒が…!」
ゴトンと取り落とした際に、弾けた蓋のコルクが飛ぶ。
ボトルの口からワインを迸らせながら転がるそれを、雪は慌てて追いかけた。
「酒なんて心配してる場合かよ」
「そうだぜ雪。ンなもん放っとけ」
「でも…っ」
真っ白な霧で覆われた視界は、足元のワインボトルを辛うじて映すだけ。
ごつんと壁にぶつかったそれは、中身を殆ど零した状態で止まった。
「ど、どうしよう…次元に怒られるかな…」
慌てて拾うも、コップ一杯程度しか残っていないワインに雪の眉も下がる。
蓋を探すも小さなコルクは見つけようがない。
落胆に肩を落とした時だった。
ガコン、
「?」
重たい錠が外れるような、そんな音を聞いたのは。
背後で響くそれに、ボトルを抱えたまま振り返る。
同時にがくんっと足元の床が消えた。
「う、わ…!?」
バランスを失った体が背後から落ちる。
「雪っ?」
短い悲鳴に異変を感じ取ったルパンが呼ぶ。
しかし雪からの返答はない。
「おい雪!」
再度神田が強い口調で呼ぶ。
しかし濃い霧は視界を遮ったまま、聞いたのはガコンと唸る謎の機械音だけ。
「チッ雪の気配が消えた…!」
「えぇっ!本当かよ!?おーい!雪ちゅわーん!?」
六幻を鞘から抜き構える神田に、慌ててルパンも床に手を付き辺りを探る。
幾度も呼べど、雪の返答はない。
「本当に消えたってぇのか!?一体何処に…ッ」
ぴちゃりとルパンの手が冷たい液体に触れた。
手元を見れば、床に広がる赤い水溜り。
雪が取り零したワインが点々と続いている。
「こいつァ…」
その先を追うように目を凝らしたルパンが見たものは───