第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「じゃあ、これ持ってって」
「? なんだこれ」
「通信機。短い距離なら、ユウの通信ゴーレムと連絡を取り合うことができるから。迷子になっても大丈夫でしょ」
「俺は子供か」
不満そうな声を漏らしつつ、それでも仕方ないと溜息をつくと次元は差し出されたイヤリング型通信機を受け取った。
「わかったよ。これで満足か」
「うん。じゃあまた後で」
「はいよ」
ぽんっと軽く次元の手が雪の頭に触れる。
叩くにしては軽く、撫でるにしては些か乱暴に。
それでも彼なりの気遣いなのだろう。
没収したワインボトルを抱えたまま、雪は大人しく次元の姿を見送った。
「───なーんか妬けるねぇ」
「? 何が」
「そんなに肩入れするくらい、次元のこと気に入っちゃって」
「そんなんじゃないよ」
「そうかぁ?通信機まで渡してたじゃねぇか」
次元を見送り、再び調査へと戻る。
しかしルパンの目はどことなく不満そうに、雪を見て横槍を入れた。
自分の時とは異なる態度に一言物申したいのだろう。
しかし雪はああと当然のように頷いた。
「だって次元は私と同じみたいだし」
「同じってぇと?」
「オカルトの類が苦手だけど、関わっちゃう人種。一人にさせるのは心配でしょ」
「へぇ…お優しいこったねぇ」
「私が次元の身だったらその方が安心するってだけだよ。それより隠し通路の手掛かりでも見つけないと」
「待て」
急かす雪を止めたのは、始終沈黙を守っていた神田だった。
止めるように片手で制し、その目は暗い廊下の先を見据える。
「なんだ?」
「どうしたの?」
同じく目を止めたルパンと雪の視界に、それはゆっくりと姿を見せた。
音もなく忍び寄る肌寒さ。
足元から這い上がるように、するすると廊下の奥から流れ込んでくる。
「何これ…」
「霧、か?」
「室内で発生するもんかよ」
神田の言う通り、普通ならば室内では見かけないもの。
煙のようで違う、ひんやりと肌寒さを感じる白い空気の層が、ゆっくりと足元を音もなく満たしていく。
すぐにそれは足元だけでなく視界も覆う程、廊下中を満たし尽くした。