第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「じゃあ女を愛するのは当然じゃないってか?」
「誰が決めた、そんなこと」
「ふぅーん…成程ねぇ」
「…なんだその阿呆面」
「酷ぇなオイ」
にまにまと笑うルパンに、心底嫌悪感を浮かべた神田の表情が向けられる。
それでも想定内の反応だと、ルパンは笑った。
「当然じゃないことをしたくなるくらい、雪は良い女だってことだろ?」
「………」
「くっくく。無言は認めてるようなもんだぜ」
「…次あいつに何かしやがったら、その喧しい口を削ぐぞ」
「おお怖ぇ。そんなに心配なら、首輪でも付けて紐で繋いでおきゃいいじゃねぇか」
「あいつは犬猫じゃない」
「なら周りを威嚇するばかりじゃなく、別の方法も考えてみな」
「…どういう意味だ」
「雪の目が余所に向くのが心配なら、自分に釘付けにさせてやりゃいいってことさ」
その綺麗な面なら簡単だろうよ、とルパンが付け足せば、神田は溜息混じりに視線を外した。
「生憎だな。あいつは美形嫌いだ」
「おりょ、そなの?…益々不思議だな、お前さん達の仲」
「興味を持つな」
「そう言われるとなぁ、尚更───」
ダダダダダ…!
「ん?」
探究心の強いルパンの目が神田に注がれる中、荒い足取りがドアの向こうから響いた。
すぐさま神田は席を立ち、腰の六幻に手を掛ける。
同じく懐のワルサーへとルパンが手を忍ばせた時。
「いたー!ユウ!ルパンッ!!」
「ぜぇッ…たく!部屋を出るなら一声掛けてけってんだ…!」
荒々しくドアを開けて飛び込んできたのは、見知った相方二人。
「…どったの、二人して」
その、心底動揺した青白い顔。
「仲良くおててなんて繋いじゃってまぁ」
「これは…!鎧が!」
「出たんだよッ!クローゼットに!」
「落ち着け阿呆。わかるように言え」
慌てふためく二人に対し、冷静なルパンと神田はすぐに獲物から手を離した。
しかし二人の落ち着いた姿を前にしても、雪と次元の顔色が良くなることはなかった。
なんせ見てしまったのだ。
「出たんだって!」
「死んだ花嫁の幽霊がよ!」