第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「で、本当に入っちまうって訳ね…」
ぱたん、と箪笥の引き出しを閉じる。
ルパンが呆れ半分、感心半分に見やったのは部屋に設置されたシャワールーム。
まるでその声が届いていたかのように、ドアを開き出てきたのは熱い湯で充分に体を温めた神田だった。
「得物と一緒に入浴たァ、心が休まらないんじゃねぇの?」
「休む目的じゃない。言われたから入っただけだ」
素っ気なく応える神田の手には、鞘に収まった六幻。
片時も離さないところ、仕事のスイッチを切るつもりはないのだろう。
言葉通り、雪に言われたから渋々濡れた体をリセットしたというところか。
「それでも雪の言うことは聞くんだな。誰にも心は開かねぇって目ェしてやがんのに」
「テメェには関係ない」
「そうそう、そういうところよ」
「煩ぇな。それよりなんでテメェまでノコノコついて来てんだ」
「いやだってよ、オレらの部屋はチェックし終えたし。ついでにこっちの部屋にはねぇかな〜と思って」
「何が」
「お宝の痕跡♪」
にひりと笑うルパンに興味なく神田は視線を外すと、団服ズボンに黒い中着だけを着用したまま、腰のベルトに六幻を差し込んだ。
広げてソファの背凭れに掛けていた団服は、未だぐっしょりと濡れたまま。
一切乾く気配のないそれに僅かに眉を潜めつつ、団服から取り出した髪紐で再び長髪を一つに結ぶ。
「あーあー。そんな半端に濡れた髪じゃまた雪に叱られるぜ?」
「煩い。余計な口出しすんな」
「(とかなんとか言っちゃって、雪が心配すると耳貸す癖によ)…なぁ、神田だっけか。おたくの名前」
「だったらなんだ」
「ずばり、神田が雪に惚れた理由って?」
「は?」
部屋を物色する手は止めずに、気軽な世間話のノリで問いかけてくる。
しかしそのルパンの問いには、神田も思わず目を止めた。
「恋愛の"れ"の字も知らねぇって顔したあんたが、何をそこまで雪に惚れ込んだんだろうってな。なぁに、ちょっとした興味本位さ」
「…興味本位なら首を突っ込むな」
「いけねぇかい?男が女を愛するなんざ、当然の定理だろ」
「それはテメェの定理だ」