第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「んじゃ、南が溶けちまう前に帰るさ」
茶化すように軽く笑ったラビが、足元に置いていた大きな紙袋を抱える。
「私も持つよ」
「ヘーキ。今回オレは荷物持ちで来てんだし。南はしっかり水分補給しろよ。顔、徹夜明け並みに死んだ顔になってんさ」
だって暑いんだもん。
今日確か猛暑日って言ってなかったっけ。
なんでこういう日に限って、科学班の買い出し頼まれるんだか…。
珈琲のストック切れたくらいで皆、顔真っ青にしてさ。
たかが一日珈琲飲めないくらい──…や、たかがじゃないな。
サービス残業や徹夜は当たり前。
日々眠気と格闘しながらの仕事に、カフェインは必要不可欠。
結局青い顔の皆に押し切られるまま、私が買い出しに出掛けた。
研究室に遊びに来ていたラビが荷物持ちするって言ってくれて、結構助かったかも。
まさかこんな大荷物になるとは思わなかったから。
「…ラビってなんでそんな元気なの?」
私の隣で大きな紙袋を抱えるその姿を見上げる。
今は8月。
真夏のこの季節に、流石によく身に付けてるマフラーを首には巻いていないけど。
ジーンズにVネックの白Tシャツ。
その上には黒いベスト姿。
ただの黒いベストかと思ってたけど、近くで見れば薄らと生地の違いでチェック模様になっていた。
近い年頃のアレンや神田と比べたら、一番年相応にお洒落好きだよね。ラビって。
でもその重ね着、暑くないのかな…本人はけろっとしてるけど。
「こんなに暑いのに」
「そりゃまぁ、体力の違いとかなんじゃね?」
「……」
「なんさその顔」
体力の違いなんて、普通の人間の私とエクソシストのラビとじゃ大違い。
元より男女で差もある。
それってちょっと理不尽。
思わず、む。と口を閉じれば、苦笑いされた。