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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)



「…暑い…」


 ジリジリと照り付ける太陽の光。
 白にも近い程の強い日差しに、じわりと肌に汗が浮かぶ。
 日差しは決して直接私の肌を照らしている訳じゃない。
 あんな強い光の下にいたら溶けてしまう。

 逃げるように避難している建物の日陰の中で、それでも体感で受ける暑さに私はやられていた。


 暑い。
 とにかく暑い。


 普段は内勤でクーラーの効いた研究室にこもりっ放しだからなぁ…こういうの、地味にきつい。
 首元の襟を掴んで、空気を中に入れ込むように布生地をぱたぱたと引っ張る。
 そんなの気休めでしかないけど、とにかくひたすら暑かった。


 暑い。
 とにかく暑い。
 暑いんだって。
 だから早く戻っ




「こーらっ」




 ぱたぱたと仰いでいた手首を、はしっと誰かに掴まれる。
 その手を辿るように目を向ければ、ぱっと明るいオレンジ色の赤毛が見えた。

 ……暑い。
 見た目の色具合が。


「んな引っ張んなって。服伸びるさ」

「……暑い。遅い」

「わかったから、引っ張んのやめ。視覚的に駄目だからそれっ」


 何が。

 そう問いかけようにも、暑さでやられた頭じゃそんな気力も湧かず早々諦めた。


「遅い。トイレ長過ぎ、ラビ」

「はいはい、悪かったって。ほら、」

「っ?」


 途中でトイレだなんて言い出すから、こんな炎天下の街中で待っていてあげたのに。
 じとっとその高い身長を見上げて文句を垂れれば、苦笑混じりに何かを差し出された。
 というか、頬にぴたりと押し付けられてその冷たさに驚いた。

 何──…あ。


「それで許して」


 冷たさの原因は、外気との温度差で水滴を付けたスポーツ飲料水。
 …もしかしてこれ買ってきてくれたから、遅かったのかな。


「…ありがと」

「ん」


 ペットボトルの蓋を開けて喉を潤す。
 相変わらずジリジリと肌を熱くする周りの気温は変わらなくても、少し楽になった気がした。


「ラビも飲む?」

「いんや、ダイジョブ。それよりもう買い物リストはねぇんさ?」

「えーっと…うん。さっき買った珈琲豆で終わり」


 書き出していたリスト表を見て確かめる。
 よかった、これで涼しい教団に帰れそう。

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