第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
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「良かったのか?恋人を置いてきちまって」
「今は"仕事仲間"。それを言うなら次元もでしょ?ルパン、ユウに斬られるかもよ」
「そんな生っちょろいタマじゃあねぇよ、あいつは。それに…あんたがいなけりゃ、意外に上手くやるかもしれねぇ」
目深に被った帽子の奥の黒い眼が、一瞬雪を捉える。
「あの二人の啀み合いの理由は大概あんただしな、雪」
「そんな問題の種みたいに…私は被害者ですけど」
「そうだなァ。ルパンの奴、相当あんたを気に入ったみたいだ」
「なんで?というかどこに?」
「さてね。あいつの女好きは今に始まったことじゃねぇし…っと、着いた」
話している間に辿り着いたホテルの受付に、あの背の高い老人は見当たらない。
「いないね、アルドルフォさん」
「人気のないホテルだしな。手が足りてないんだろうよ」
受付に置かれた呼び鈴を、ちりんと次元の手が押す。
しかしいくら呼び鈴を鳴らしても、受付に誰一人現れることはなかった。
「いねぇのか…?」
「いないね…」
共に身を乗り出して受付カウンターの中を覗くが、やはり誰も見当たらない。
諦めて部屋に戻ろうと踵を返す。
「何かお困りですかな?」
「うおぁ!?」
「うひゃあ!」
そんな二人の目前にぬぅっと立っていたのは、コケた頬に青白い肌の老人アルドルフォだった。
突然の彼の出現に、思わず雪と次元は隣り合わせでカウンターに背を押し当て後退った。
「(びび吃驚した!)い、いえ…あの、タオルを貰えたら、と…部屋の分だけじゃ足りなくて…」
「俺ァ煙草を置いてねぇかと…」
「タオルはありますが、生憎当ホテルは全面禁煙となっております故…!」
「っそ、そうかよ(道理で客がいねぇ訳だ…)」
まるで脅しにかかるかのように目を見開き迫るアルドルフォに、寂しいホテル内に次元は内心納得した。
ヘビースモーカーである彼からすれば、全面禁煙のホテルなど普段なら絶対に立ち寄らない場所だ。