第2章 ◇恋の始まり(ラビ)
「南ー」
試しに呼んでみる。
起きる気配はない。
「南って」
もう一度呼んでみる。
今度は顔を近付けて。
それでも起きる気配はない。
「はぁ…」
仕事で大変なのは知ってるから、なんだか無理矢理起こす気にはなれなくて、近い距離ですぅすぅと南の寝息を感じながら思わず溜息をついた。
今度はどんだけ徹夜したんだか…。
「…そーいうのさ、無防備って言うんさ」
誰に見られるともわからない、こんな所で寝落ちるなんてさ。
こんなに触れても起きる気配もないし。
リナリーだったらコムイが大慌てさ。
スキンシップは多いオレだから、南に対しても変わらずよく取っている。
丁度良い位置に頭があるから、肘掛けにし易いし。
リアクションいいから、膝かっくんしたりくすぐんのも面白いし。
そういう時の南はうざったそうにしながらも、決して逃げたりしない。
なんだかんだオレに付き合ってくれる。
そんな南の隣は心地良くて、いつも気付けば目で追っていた。
その姿を捉えれば、自然と足が向いていた。
「折角髪飾ってやったんだし、起きろさー…」
すぅすぅと未だに眠り続ける南の寝顔に声をかける。
折角オレが飾ってやったのに。
……てか、この距離で見ると割と睫毛長いんさなぁ…。
「……」
相変わらず疲れた顔はしてるけど。
目の下に隈も見えるけど。
しっかりと瞑られた目元の睫毛は、女性らしくラインを象っていたり。
少し半開きの唇は、ふっくらとした目を惹く形をしていたり。
…さっき触れた時もそうだった。
何気なくやった行為だから、別になんとも思わなかったけど…そーいや柔らかかったな。
南の唇。
「…ちゃんと、持つもん持ってんじゃんか」
ぱっと見はわかんねぇけど、こうして見れば南はちゃんと"女"だった。
そんな変化に気付くと、なんだかそんな自分が誇らしく思った。
科学班連中辺りは気付けていないんだろうけど、ちゃんと南には南の魅力があるんだって、気付けた自分に。
なんだか優越感みたいなもんを感じた。