第15章 Ⓡ◆Boy meets Boy!(神田)
「ユウの?」
「知らねぇ」
「でも此処に置いてあるってことは…あ、ほら。やっぱりユウのだよ。イニシャルが付いてる」
こんもりと膨らんだ紙袋を、雪の手が持ち上げる。
"Cher Y.K"と走り書きされたそれは、確かに神田ユウのイニシャルとも取れる。
「俺の字じゃねぇし、そもそもこんなもの身に憶えがない」
「じゃあ誰かが置いていったんでしょ、ユウ宛に。誰か……な?」
なんとなしに紙袋の裏を見れば、そこには差出人のイニシャルなど記載されていなかった。
代わりにあったのは、真っ赤な口紅で付けられたキスマーク。
「…………誰?」
「知らねぇよ、んな変な目で見んなッ」
「(ファンクラブの方達ならもうちょっと上品な贈り方しそうだし…だとすると、)…まさかユウが浮気とは…器用なことできるようになったんだね…」
「阿呆か!なんでそんな話が飛躍すんだよ!貸せッ」
「あ。冗談だよ、冗談。何?中身」
引っ手繰るようにして紙袋を奪う神田に、気にした様子なく手元を覗き込む雪。
がさがさと神田の手が紙袋の中を漁れば、引っ張り出されたのは一冊の雑誌。
筋肉質なごりごりの男性が二人、寄り添って表紙を飾っている。
大きな文字で注目ワードのように書かれているのは、"男が求める男の性"、"悩める男子相談室"、"これで貴方も名器主"、エトセトラエトセトラ。
「………」
「………」
所謂ゲイ雑誌である。
「………」
「オイ。待て。無言で首を横に振るな後退るな」
「ご、ごめんユウ…そこまで本気で路線変えようとしてたなんて…私、気付かな…っ」
「勝手な解釈すんな哀しい顔すんな!」
「いい。皆まで言わないで。ユウがゲイになろうと別に私は構わな」
「違ぇつってんだろ!黙れ!」
「んんっ!?」
「チッ、暴れんじゃねぇよ…!」
あれよあれよと神田に口を押さえ付けられると、雪の体は目の前の部屋に押し込まれた。
しっかりと紙袋と雑誌も抱えたまま、滑り込むようにして神田の姿も部屋へと消える。
ばたんと荒々しく閉じる扉に、廊下に佇む気配は一つもなかった。