第15章 Ⓡ◆Boy meets Boy!(神田)
「少しだけ見直したからな。任務全うするまで耐え切ったから」
「ああ、成程ね……でもできたら見直さなくていいから、手を差し伸べて欲しかったかなぁ…優しさという名の」
今だからこそ言えること。
優しい言葉をかけて欲しいなんて言わないが、せめて歩調を緩めて振り返って欲しかった。
一度くらいは、その目に自分を映して欲しかった。
苦笑混じりに茶化す雪に、じっと黒い神田の眼が向く。
「無理だな」
「なんと」
それも束の間。
さらりと告げられたのははっきりとした否定。
「無理だろ、過去のことなんざ今更どうこう」
しかし雪の肩が下がる前に、頭に触れた手がくしゃりと髪を撫ぜる。
「だから頼むなら今後の時にしろ」
一度だけ髪を撫ぜた手が離れる。
告げる声はいつもと変わらないが、その意味に雪は目を丸くした。
「(それって…)き、期待するよ?そんなこと言うと」
「好きにしろ」
ふいと逸らされた目線に、再び歩き出す足。
しかし繋がれた手は離れぬまま、今度は雪が手を引かれる形となった。
少し斜め前を歩く神田の足は、ギニアの任務時とは比べ物にならないくらいに穏やかだ。
じっと斜め上の顔を見上げていれば、視線を感じたのだろう切れ目がこちらを向く。
「なんだ」
「…なんでも」
一度も重ならなかった視線は、こうも簡単に重なるようになった。
繋いだ指先はひんやりと冷たいはずなのに、何故か熱を帯びる。
(なんか、今日のユウ…優しい、な)
出会い頭から意表を突かれた。
それは全て、この身が元に戻ったからなのだろうか。
そう思えば、女であることにほんのりと喜びを感じる。
男女の垣根に拘りはなかったはずなのに、こうも一人の人間から与えられる感情で意識が変わるとは。
(これじゃあラビに、そっちこそお花畑だとか言われそう…)
そうは思ってもふわふわと浮かぶような心は止められない。
つい口元を緩めそうになりながら、雪は見えてきた一室の扉に目を止めた。
「あ、着いたよユウ───……何あれ?」
見慣れた神田の自室の扉。
しかしその前には、見慣れない物が一つ。
ぽつんと部屋の主を待つように置かれていたのは、茶色の紙袋だった。