第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「お前…ほんと、早く戻れよな」
「へ?」
「…じゃねぇと疲れんだよ、色々と」
いい加減逆上せる前にお風呂を上がろうかと考えていると、溜息混じりに呟かれたその言葉に、引っ掛かった。
「疲れるって、何が」
なんで神田が疲れるの。
入れ替わってるのは私とアレンなのに。
「こんな阿呆な出来事で我慢させられるなんざ、冗談じゃねぇ」
だから何が──…あ。
…うん。
…………なんとなく、わかりました。
「…元に戻ったら、ちゃんと神田に報告しに行くよ」
自分から神田を求めるような発言は、ちょっと恥ずかしかったけど…今のこのふわふわとした気持ちなら、言葉にできる気がした。
「だか──ガコン!
………がこん?
「「……」」
明らかに自分の声じゃない、謎の衝突音がその場に響き渡る。
思わずその音がした方に神田と目を向ければ、
「あ……ぇ…えと…」
取り落とした桶を足元でカランカランと回しながら、真っ赤な顔で後退るあれは科学班の──…ジョニー?
「おおぉお邪魔しましたぁあああ!!!!」
「あっ!」
途端、弾けるように踵を返して走り去る。
そのあっという間の出来事に、声をかける暇もなかった。
……え。
……これって…その…まずく、ない?
「…か、神田…」
「……」
思わずすぐ目の前にある神田の顔に恐る恐る顔の向きを戻せば、その顔色もまた珍しく青いものへと変わっていた。
今の私の姿は、誰がどう見てもアレンでしかない。
そんな姿で、こんなお風呂場で、神田とこんな至近距離で顔をくっつけ合ってるなんて。
アレンなら絶対にしないだろうし、そもそも男同士でやるもんじゃない。
…………どうしよう。
「…月城の所為だからな」
「ええっ!? 先に顔くっ付けてきたのは神田でしょ…!」
「煽ったお前が悪い」
「何が!? 何も煽ってないけど!」
その後、必死にジョニーを追って誤解を解こうと努力したのも虚しく。
アレンと神田が風呂場で仲睦まじくしていた、なんて噂は後日しっかりと広がってしまった。
……ごめんアレン。