第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
*おまけ*
「ほらリンク、出て行って下さいよ。覗いたら怒りますからね」
「覗く訳ないでしょう。さっさと済ませて下さい」
「ティムも。リンクと待ってて」
「ガァッ」
部屋からリンクとティムを追い出して、きちんとドアを閉める。
そうして一人になった室内の鏡に映った、自分の顔を見て。
「はぁ…」
つい溜息。
其処には雪さんそのものの姿があった。
任務に出られない問題もあるけど、何よりも問題はこれだ。
女性だから僕と体の造りが違うことなんて当たり前だけど、改めてこの体になって気付く。
力の弱さや、手足の小ささや…体の柔らかさ。
この体は女性で、雪さん自身のものなんだと五感を使って感じると…なんだか照れてしまう。
「…着替えよう」
とにかく着替えないと。
寝間着を手に、目をしっかりと瞑る。
平常心、平常心。
昔からずっと大道芸をやってたんだから、目隠しして着替えるなんて造作もないことだ。
「みたらし、みたらし…」
頭の中を食べ物でいっぱいにしながら、着ていた服を脱いでいく。
なのにするすると肌を布が擦れる音は、やけに耳にはっきりと届いた。
大丈夫、大丈夫。
ただの着替えだ、着替え。
こんなのすぐに終わる。
着ていた服を脱いで、寝間着に腕を通して、ぷちぷちと前ボタンをとめ──
ふにっ
感じたのは、手首に伝わる柔らかいもの。
「──っ」
思わず体が固まる。
胸元のボタンをとめる手首が触れたのは──…って駄目だ駄目!
「みたらしみたらしみたらし!」
意識するな!
今のは偶然、ちょっと触れちゃっただけだから!
わざとじゃないから!
ごめんなさい雪さん!
『こんな夜中まで食べ物を強請らないで下さい! 煩いですよウォーカー!』
いや、リンクも煩いから。
それにこれは強請ってるんじゃ…いややっぱり本当にみたらしが欲しいかも。
じゃなきゃこの体から意識を逸らせそうにない。
「…地獄だ」
一体いつまで、耐え続ければいいのか。
鏡に映った赤い雪さんの顔にさえもドキドキしてしまう自分がいて、項垂れるしかなかった。
fin.