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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)



「どうしたの」

「……お前、早く元に戻れよ」

「え?」


 深々と溜息をついて出た、唐突な神田の言葉に意味がわからず首を傾げる。


「じゃねぇと…触れられねぇだろ」


 ………。
 ………………。
 ……………………ええ、と。

 それって………うん。


「え、と」


 アレンの体でも普通に触れることはできる。
 でもきっと神田が言った"触れる"の意味は、そういうものじゃない。
 その言葉が何を意味しているのか。
 なんとなくわかってしまったから、顔は熱を帯びた。


「あ、あはは…」

「…何笑ってんだよ。他人事だと思いやがって」

「そ、そんなこと思ってないよ」


 だって。


「私だって…その…」


 ジト目を向けてくる神田に、言い難いことだけど伝えることにした。
 ちゃんと思いを口にしてくれた、神田に。


「神田に触ってもらうの…好き、だし…」


 ………これ、思った以上に恥ずかしいかもしれない。


「……だから…そういう反応、すんじゃねぇよ」


 するとまたぱちりと目を瞬いたかと思えば、また盛大な溜息。

 何、そういう反応って。
 素直に言っただけでしょ。
 言いたいことは言えって、いつも言ってくるでしょ。


「…納得いかねぇ」

「は?」

「モヤシのツラしてんのに…」


 どこか自分をなじるように、嫌々とした顔で呟く。
 その目は余所に向いていたかと思うと、やがて私の元へと戻ってきた。


「…モヤシの顔でもイラつかない理由がわかった」

「え? そうなの?」


 そして小さな溜息一つ。
 真っ黒な目が私を映して、濡れた手が頬に触れた。


「外見も勿論お前の一部だ。…ただその中身も、俺には影響が強いんだよ」


 濡れた手はいつものひんやりとしたものじゃなく、湯船に浸かっていたからか少し熱い。
 その熱が伝わるかのようにドキドキして、神田の言葉と仕草に胸が熱くなった。

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