第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「…その、近いんだけど…」
「あ?」
というか、いい加減離れてくれないかな。
腕は解放されたけど未だ目の前に神田の体はあって、下がろうにも後ろは浴槽の縁。
このままお風呂から上がって逃げれば、なんか怒られそうだし。
動けない。
「……」
「な、何」
そんな私の言葉に、無言でじろじろと目を向けてきたかと思うと。
「いくら中身が入れ替わってようが、モヤシ相手に意識したりしねぇよ」
思いっきり溜息混じりに言われました。
いや…うん。
それは確かに、そうだろうけど。
寧ろ意識された方が困るけど。
困りますけど。
…それはそれで、ちょっとショックかもしれない。
一応、中身は私なんで。
「それよりお前の体の方は、今はモヤシが入ってんだろ。そっちの方がいけ好かない」
「…アレンは紳士だから、私の体を変に扱ったりしないよ」
そこは本当に、入れ替わったのがアレンでよかったと思った。
色々気遣ってくれてたし。
それでも神田の顔は険しいまま。
「扱い方の問題じゃねぇよ」
どうやらそのこと自体が、気に喰わないらしい。
まぁ…犬猿の仲だしね…。
「そもそも、なんでそんな阿呆なことになってんだ」
体を離して隣に座り直す神田に、なんとなくその場で私も湯船に浸かったまま。
神田はなんとも思わないかもしれないけど、私はそうはいかないから。
これ、改めて考えると凄い構図だよね…神田と一緒にお風呂なんて。
「どうせコムイか科学班連中の変な薬の所為だろ」
わ、半分当たってる。
「そんなところかな」
「いつ治るんだ」
「さぁ…コムイ室長が言うには、一日二日で元に戻せるって」
「本当かよ…」
呆れ混じりに溜息つく神田に、こればっかりは同じ気持ちだった。
ほんと、コムイ室長って胡散臭いところ沢山あるからなぁ…。
でもお願いだから早く元に戻して欲しい。
「室長に周りにはバラすなって言われてるから、神田も黙っててね」
「…面倒臭ぇな」
口止めをすれば面倒臭そうにしながらも、一応了承してくれたみたい。
とりあえずこれで一安心かな。