第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「な、なんで叩くの…っ」
「当たり前だろ! 此処は男湯だぞ、なんで普通に入ってんだよ!」
「や、アレンの体だから女湯には入れないから…っ」
「そもそも風呂に入ろうと思う時点で可笑しいだろうが!」
頭を押さえて反論すれば、ある意味正論でずばり返された。
うん、間違ってない。
神田の言うことは間違ってないけど。
「だって…お風呂、入りたかったんだもん…」
湯船にはずっと入れず終いだったから。
偶には人目を気にせず、お風呂に入りたかった。
例えアレンの体でも。
頭を押さえたまま、小さな声で本音を零す。
……そういえば、叩かれたけどいつもの力加減だったな…。
食堂で殴られたあの痛みに比べれば、全然マシだった。
「…チッ」
そんな私に舌打ちをしたかと思うと、ぱっと腕を掴んでいた手を離された。
「テメェな…誰か風呂に入ってたらどうすんだよ」
「…見ないようにします」
「おま…」
私の答えが予想外だったのか、目を丸くしたかと思うと思いっきり呆れた顔で見てくる。
だって別に、男性の裸を視姦する気はなかったし。
見ないようにして入れば平気かなと。
「変態か」
「……人間誰しも変態なんですよ」
ほら、フェチとかそうだから。
呼び名をちょっと変えてるだけで、つまりマニアックに好きだってことでしょ。
あれも充分変態思考と同じですから。
公認的な言い方してるだけで、結局皆、大なり小なり変態思考は持ってるんです。
そういうことにしておこう。
「でも別に男性の裸なんてそんな気にならな──…」
「……何黙り込んでんだ」
「…いえ」
いや、気にならないけど。なりませんけど。
アレンの肉体美だって、良い体してるなーってまじまじ見れましたけど。
……うん。
目の前のこの体は、あんまり直視できない。
引き締まって、無駄なくついた筋肉とか。
いつものきちっとした一つ結びじゃない、無造作にまとめられた髪とか。
お風呂の熱気で上気した肌に張り付く、濡れた髪先とか水滴とか。
……なんだろう、色気が凄まじいんだけど。
「……」
思わず顔を逸らす。
…顔、赤くなってないかな。