第15章 Ⓡ◆Boy meets Boy!(神田)
ザッ
地を蹴る微かな音を耳にしたかと思えば、目の前からユウの姿は消えていた。
音を置いていく程に尋常じゃない速さで距離を詰めるユウは、言うなれば風のようだ。
靡く髪の先を辛うじて視界の隅に捉える。
姿は確認できなかった。
叩き込まれる打撃の確認もできないまま、咄嗟に腹部を立てた両腕でガードする。
バシン!と強い男が響いて、ビリビリと両腕が震えた。
叩き込まれた膝蹴りは防げたものの、ぐらりと体が傾く。
「っ!」
それをどうにか片足で支えて踏ん張った。
よ、よし…!
いつもならここで吹き飛ばされてしまうけど、やっぱり男の体だから───
「考え事とは気楽だな」
すぐ傍で掠める低い声。
足場を払う長い脚に咄嗟に上へと跳び退けば、既に気配は真上に在った。
「ぐ…ッ!」
握った両手の甲を振り下ろされて、後頭部を強打する。
さっきまで足元にいたはずなのに、いつ追い越されたのか。
やっぱり常人を遥かに越えてる。
こんなに動きについていけるはずがない。
「だ、大丈夫か、雪の奴…」
「神田のヤロ…いくら雪が男になったからって、手加減しなさ過ぎなんじゃ…」
「いやアイツに手加減なんてする知能あったよ?」
「「「ないな」」」
傍観組の外野の声なんて聞いていられない。
次々と打ち込まれる一発一発が、重い鉛のような拳を受けるのが精一杯だ。
でもユウとは数え切れないくらい組み手を交え、その度に前に後ろにと容赦なく投げ飛ばされてK.O.されてきた。
目では終えないけど五感でわかる。
辛うじて急所を狙われることは裂けつつも、じりじりと体は後退していった。
「どうした、さっきまでの威勢は。単なる強がりかよ」
「うるっさいな、こういう時だけ饒舌になるのやめてくれる!?」
「お前だって煩いだろうが」
「私のは常備───っ」
「それが隙になってんだよ」
喚く合間に、下から伸びた大きな手が私の襟首を掴んだ。
まずい。
これいつものパターンだ。
このまま呆気なく体を大きく投げ飛ばされる、助走無しのハンググライダー的な。
そのまま顔面から床にこんにちはする、恐怖のハンググライダー的な。
ぐっとユウの足腰が低く構える。
ふわりと体が宙に浮く瞬間に、無駄だとわかっていて咄嗟に手を伸ばした。