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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第15章 Ⓡ◆Boy meets Boy!(神田)



男ってなんて楽しいんだろう。
割と体は鍛えていた方だから、女の時と大差ないだろうと思ってたけど。

ほんの少し、息切れすることが減って。
ほんの少し、届かないものに手が伸びて。
ほんの少し、持ち上げられるものが増えて。
そのほんの少しの差が埋められることが、楽しい。

あ、それと月一の月経がなくなったこと。
女の象徴とか言うけれど、常に戦闘に身を置く仕事をしているから、否応なしに体調不良にならないで済むのは純粋にありがたかった。
トイレもシャワーも男用でも個室を使えば問題ないし、自分の体だと思えばすぐに見慣れた。

男になって早一ヶ月。
以前アレンと体が入れ替わった時より、物事は順調に進んでいるようだ。



「っし!」

「あぶふッ!」



力んだ息を吐きながら、目の前の巨体を真後ろに放り投げる。
顔面から落ちた顔は、床と衝突際にくぐもった悲鳴を上げた。



「あ!ごめんゴズ!大丈夫っ?」

「だ、大丈夫です。雪先輩、女性の時より強くなりましたね…イタタ」

「そりゃあ男だもん、筋力は変わるでしょ。うん、顔に怪我はしてないみたい」

「だからって、あんなに立て続けに皆を負かせるなんて…先輩、凄い」

「そうかな」



座り込んだまま私の後方を見るゴズに、振り返れば続けて組み手を交え負かしたファインダー仲間達が座り込んでいた。



「ったくよー!女の時も容赦なかったけどよ…!」

「更に腕上がったよなぁ雪の奴…いったー」

「体格はオレのが上だってのに。オイ痛み止めどこだ?」



各々負傷した体を手当てする皆の愚痴に、つい笑ってしまう。
そりゃあ女だって舐められたくなかったから、昔っから人一倍鍛えてきましたので。



「次、私と誰か組み手──」

「グハッ!」



まだ体力は充分有り余ってる。
次に私の相手をしてくれる人はいないか、修練場を見渡した時だった。
ゴズの悲鳴より更に痛ましい叫び声が遮り、投げ飛ばされたであろうファインダー仲間が私の横に落ちてきたのは。



「次」



続けて届いたのは、低くぶっきらぼうな声。
見なくてもわかる。
だって目の前の手当て中の皆が、青い顔で私の後ろを凝視してるから。

その気持ち、よくわかるよ…鍛錬の鬼がいるんでしょ…別名ファインダー殺し。
仲間内で密かに呼ばれている、ユウの名だ。

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