第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】
「痛いってレオ。どうしたんだよ、でかい鼠でもいたのか?」
「…ミャァ…」
「よしよし、もう気は済んだか?」
抱き上げれば大人しく腕に収まる愛猫に、興味を無くした新聞の切れ端を風に流す。
狭い路地裏に吹き込む風が、ひらりひらりと軽い切れ端を飛ばしていく。
「帰ったら大好きなツナ缶開けてやるからな」
背を向け光差す方へと進む少年の腕の中で、じっと猫は大人しく縮まっていた。
金色の瞳が見上げた先は、長方形に切り取られた狭い路地裏の青空。
風に舞う血の滲んだ紙切れだけが、高い煉瓦の壁を飛び越え青空へと吸い込まれていった───
はし、と宙を舞う新聞を掴み取る。
見知った事件の記事を横目に、ぐしゃりと丸めたそれをコートのポケットに突っ込んだ。
燦々と降り注ぐ太陽の下、建物の屋上から見下ろす狭い路地裏の世界は、既に別世界に見える。
「何、急に…吃驚した…」
傍で届く戸惑い混じりの声。
路地裏から視線を戻せば、腕の中に収まった雪が困惑の目を向けていた。
新聞に染み付いたAKUMAの血に荒立っていた獣は、僅かに飛ばした殺気で黙らせた。
もう路地裏に駆け込んでくるようなことはないだろうが、余計な邪魔が入ったのは確かだ。
「どうしたの」
察した気配に考えるよりも早く、雪の体を抱いた神田の足は煉瓦の壁を蹴り上げていた。
常人を遥かに越えた体は易々と細い路地裏を抜け出すことができ、お陰で雪に猫と少年の気配は悟られなかった。
ほぅ、と微かに息をつく。
雪に邪魔を悟られなかったからではない。
「ユウ?」
上気した頬に、濡れた唇に、潤んだ瞳。
女としての顔を魅せる雪の姿が、他人に曝されなかったことへの安堵だ。
「…なんでもねぇよ」
野外という場で羞恥混じりに感じる雪の様は酷く欲望を駆り立てたが、それは自分のものとしてしまい込んでいたいもの。
誰かの目に止まるようなことだけは願い下げだ。