第14章 Ⓡ◆路地裏イチャアンin神田【企画】
「その顔を明るい所で見たいと思っただけだ」
「その顔って…」
「俺が欲しいって強請る顔」
「! ね、強請ってなんかっ」
「欲しくねぇのか?」
「………」
上気した頬が更に赤く染まる。
黙り込んでしまえば、それが既に肯定の答えだとわかっているのだろうが、返す言葉がないらしい。
腕の中にすっぽりと収まる体は、身を捩ることもなく逃げ出さない。
細い指は神田の団服を掴んだまま、離すことはない。
結んだ口から欲する声は聞けなかったが、逸らした視線を僅かばかり向けてくる。
切望する時の雪と同じ色を含んだ瞳に、神田は口角を吊り上げた。
「戻ったら欲しいだけくれてやる」
「っわ、」
ファインダーのフードを目深に被せて視界を遮る。
遮るというよりも、雪の顔を周りから隠す為に。
荷物ごと抱き上げたまま、高い屋上の柵に足を掛けた。
「だからお前も俺に寄越せよ」
「待って、まさかこのまま──」
「黙ってろ、舌噛むぞ」
「うわぁ!?」
助走もつけず、ひらりと高い屋上から跳ぶ。
人目のつく大通りの中を、欲を交えた雪を連れてなど歩けない。
───というのは建前で。
(欲しがってんのは、俺の方か)
腕の中のこの柔らかな体に、早く自分のものだという印を刻み付けたい。
あるのはじりじりと焦げ付く、欲の形だけだった。
【蜃気楼ラヴァー fin.】